BS1スペシャル「伝説の晩餐会へようこそ~ゴルバチョフ・冷戦終結を巡る秘話」:亡国の元首が語る冷戦終結のプロセス

BS1のドキュメンタリーは自社他社政策を問わず興味をそそる番組が多いため、番組表で確認しては気になるものを録画するようにしている。

東西冷戦をテーマにしたものではベルリンの壁崩壊の序章となったヨーロッパ・ピクニック計画を追った番組が秀逸で、現在でも時折再放送されることがあります。

http://www.nhk.or.jp/archives/nhk-archives/past/2004/h040606.html

ヨーロッパピクニックは舞台となる当時のハンガリー政権と、東ドイツ国民の立場から事件を見たものでしたが、こちらは当時のソ連書記長ゴルバチョフの視点から冷戦終結のプロセスを追う番組となっています。

タイトルにあるほど晩餐会の役割が大きく評価されているわけではないのでこのタイトルは少々大仰な印象があります。それでも冷戦終結の過程で重要な会談におけるディナーのメニューがそれなりに紹介されているのでそれはそれで見ていて面白いです。

しかし番組の主眼は晩餐会やそのメニューではなく、当時の冷戦終結の過程において、各国の首脳がいかに関係を構築し、個々の会談がその後の結果にどのように作用したのかを語ることにあり、いわば指導者同士の意思決定の過程と作用を追ったものとなっている。

番組では主にゴルバチョフの視点と証言から冷戦終結のプロセスを追っているのだが、アメリカ(レーガン)、イギリス(サッチャー)、フランス(ミッテラン)、西ドイツ(コール)それぞれの国との会談の主題や意図がそれぞれ異なるのが面白い。

こと冷戦終結の過程においても、西側とひとくくりに取りまとめられるものではなく、各国の思惑や利害はそれぞれ異なっており、それらの国を相手に東側を代表しなければならないゴルバチョフの苦労がしのばれます(イギリスやフランスはナチス時代の経験から必ずしも統一ドイツに賛成ではないなど)。

ゴルバチョフという人物が興味深いのは、冷戦終結の立役者でいながら同時にこの人はソ連という国家にとっては「亡国の元首」なのですね。番組でも言及されていたように、当時東側の政権が次々に崩壊する中で、ソ連が軍隊の派遣を行うかどうかは西側にとっての大きな懸念であったのですが、最終的にゴルバチョフは「東側各国への内政干渉は行わない」という決断を行います。それは純粋な人道的決断ではなく、当時すでにソ連にはそのような余力が存在しなかったことと、時代の趨勢を見越したうえでの合理的な決断ではありますが、この決断がなければ東西冷戦という世界的な対立構造の終結にはより多くの混乱と流血があったものと予測されます。

その点では間違いなくゴルバチョフは現在知る形での冷戦終結における主要な立役者なのですが、その結果としてソ連も崩壊し、その責任を問われる形になるのは皮肉としか言いようがありません。

その後のロシア政界においてゴルバチョフが不人気であり、政治の表舞台に返り咲くことがついになかったのも「亡国の元首」であるゆえでしょうが、一方でソ連という巨大国家の「最後の元首」が殺害も収監もされず、現在も存命であるというのはやはり興味深く、その証言は今後も貴重な資料であり続けるのでしょう。

ちなみに番組の中で「当時ソビエトの経済規模はアメリカの4割程度だが、軍事費はアメリカのそれを上回っていた」とのコメントがあったのですが、それじゃあ経済がもつはずありませんよね。