スローターハウス5:視点と時系列の複雑な交錯

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評価:2.5(5点満点)

総評

スローターハウス5』は複雑な映画と言えるでしょう。映画内では主人公ビリー・ピルグリムの過去の体験が時系列を無視して描かれることになります。第2次世界大戦におけるドイツでの新兵時代、戦争後~結婚直後までの時代、中年期~現在などの経験が順不同で次々に展開されます。

しかも物語の最初でビリーはしばしば「時間に飛ばされる」と話しており、これらの体験がその現象による追体験なのか、単なる回想であるのか判別することが難しく、また「時間に飛ばされる」点も映画ではそれ以上深く語られることはなく、その説明の少なさが複雑さを増す一因になっていると思います。

余談ですが、「説明の少なさ」、正確には言葉による説明の少なさというのはその映画が傑作、名作と呼ばれるにあたり必要な条件の一つであると思います。物語における舞台設定、背景、キャラクターなど例えば小説であれば言葉で語るべき内容を、映画では映像、音楽など視覚、聴覚での説明が可能です。その映画の設定をナレーションや登場人物の言葉で説明するというのは基本的に映画では下策で、没入感を削ぐ原因になるものと考えています。達者な作り手であるほど言葉による説明なしに、物語を違和感なく進めることができるのではないかと思います(この点は日本人の作り手では北野武が抜群に上手いと思いますね)。

私は原作であるカート・ヴォガネットの作品を読んでいないので、本作についてはその説明の少なさは、作り手の意識したものなのか、原作を切り取った結果であるものなのか判断ができません。それぞれのシーンでこれが追体験であることを示唆するセリフや言動が挿入されているのですが、漫然と映画を観てもそれを理解することは難しいと思います。そういう意味で本作は、その説明の少なさが単なる説明不足であり、観客にとっての分かり難さになってしまっている点は残念です。

原作を読んでいたらもう少し評価も印象を変わっていたかもしれません。私はSF好きで、有名どころはそれなりに読んでいたつもりなのですが、何故か本作を含むヴォガネット作品はこれまで手に取ることはありませんでしたので、機会があれば原作を読むことにしたいと思います。

蛇足になりますが、本作の音楽にはグレン・グールドが参加しているのですね。劇中、特に第2次大戦のシーンで『ゴルトベルク変奏曲』などが使用されており、劇中のシーンを印象付ける効果を与えています。評点の2.5のうち0.5の追加がこの点ですね。