『OneShot』 壁を超える試み

先日『Factorio』が面白いと記事を書きましたが、そろそろ別のゲームをやりたくなり、昨年のウィンターセールで購入した『OneShot』を始めました。

store.steampowered.com

インディーゲームながら高い評価を受けていることが購入の決め手でしたが、確かに評判を裏切らない内容でした。セール価格は¥588でしたが値段以上の出来でした。

※注意!以下には『OneShot』の部分的なネタバレが含まれます

※ネタバレで面白さが半減するゲームなので購入を検討されている方はご注意を

 

プレイ時間は10時間程度ですが、途中までダッシュの仕方やファストトラベルの存在を把握していなかったのが理由なので、おそらく5~7時間程度でクリアできるボリュームです。ジャンルとしては「パズル要素のあるアドベンチャーゲーム」と言った内容です。

『OneShot』はプレイヤーと主人公によるインタラクティブなやりとりが特徴的な、新感覚パズルアドベンチャーゲームです。 太陽の失われた見知らぬ土地で目覚めた主人公「ニコ」を導き、世界に光を取り戻す旅に出ましょう。  

 ジャンルやストーリーそのものについては同種のそれが昔から存在するものであり、殊更斬新であるとかユニークであるというほどのものではないのですが、本作の特徴はそのギミックや演出が「第4の壁」を超える試みであるということでしょう。

 

第四の壁 - Wikipedia

 

具体的な例を挙げることはネタバレにつながるので言及を避けますが、ゲーム内の所々に仕掛けられた謎解きについて、その謎を解くためのヒントが提示されます。その提示の方法がこれまでのパズルゲームやアドベンチャーゲームには無い手法であり、最初は少々戸惑いますがとても斬新に感じました。

また、そのヒントの提示方法そのものが、演出の一部として物語の内容に取り込まれており、メタフィクション的な構造を演出することに成功しています。ゲーム内における物語と演出が高いレベルでリンクしていることも素晴らしいですが、その演出内容が「ゲーム」というジャンルならではの内容となっていることになお感心します。映画や演劇における「第4の壁」の向こう側に存在するのは「観客」ですが、ゲームの場合のそれは「プレーヤー」となります。映画や演劇の「観客」とは異なり、「プレーヤー」はゲームに対して「操作」と言う干渉を行うことが出来るという意味で双方向的です。この違いを製作者は正しく理解し、演出、ギミックに活用しています。

ゲームにおける「第4の壁」の活用例は多々ありますが、古参のゲームファンである自分が思い出すのは『EVE The Lost One』という98年発売のゲームですね。この作品はアドベンチャーゲームにおける名作と名高い『EVE burst error』の続編として制作された作品ですが、はっきり言って世間的な評価は低いです。魅力に欠けるキャラクター、超展開ばかりで整合性のない破綻したシナリオ(脚本は無名時代の桜庭一樹!)などいろいろありますが、個人的にもそれらの評判には同意せざるを得ない内容でした。

www26.atwiki.jp

そんな『EVE The Lost One』なのですが、ゲーム終盤の演出が正に『第4の壁』を超える試みであったのが記憶に残っています。この作品はコマンド形式のアドベンチャーゲームであるため、プレーヤーはゲーム内のキャラクターを「話す」「移動」「取る」などの選択肢を指定して物語を進めていくのですが、終盤にいきなり画面が反転し、ゲーム内のキャラクターが「もうお前の言うことは聞かない」と言い出し、その後一切のコマンドを受け付けなくなり、勝手に物語を進めるようになります。あまり必然性のある演出とは言い難かったのですが、予告のない突然の展開だったので非常に驚いた記憶があります。

そんなことを思い出しながら『OneShot』をプレイしていたのですが、本作はこれまでプレイした昔の作品に比較しても、第4の壁を利用した演出が非常に洗練されており、ゲームと言うジャンルはまだまだ進化しているのだと改めて感じました。

本作はその特徴的なギミックや演出についての評価が高いですが、そのストーリーも面白い内容でした。”ポストアポカリプス”、”多次元宇宙論”、”世界シミュレーション仮説”と言ったテーマがその童話的な語り口やグラフィックに取り込まれることで平易化され、その小品というべきボリュームに密度の濃いストーリーを展開する手腕には脚本家のレベルの高さがうかがえます。(ネタバレになるので反転表示)

主人公のニコを始めたとしたキャラクターの造形も魅力的で、優し気だが同時に物悲しくもあるBGMも良く雰囲気が出ており、総じて全体的にレベルの高い作品でした。

本作の演出はPCゲームならではの部分が大きいので、PS4などの据え置き機に展開されることは技術的に難しいでしょう。また、先述したようにゲームならではの演出が本作の肝となる点であるので、アニメなど他ジャンルへの展開も厳しいでしょう。それでも気になるという方はお手持ちのPCでぜひプレイしてみてください。他には見られない体験を得ることが出来るでしょう。

謎解きと言ってもそれほど難しくもなく、攻略サイトを見ずともクリアできる程度の難しさです。むしろ本作を堪能するためには、ぜひ攻略サイトを見ずにクリアしてほしいです。