NHKドキュメンタリー「シリーズ“脱炭素革命”2▽激変する電力ビジネス」:正にパラダイム・シフト

シリーズ”脱炭素革命”の第2回を視聴。

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投資と金融の面から脱炭素への潮流を追った第1回に続き、第2回は電力ビジネスで今起きている再生エネルギーへのシフトを追った第2回。タイトルこそ「激変する電力ビジネス」となっていますが、ビジネスのみならずこれはもう電力の生産・使用に関するパラダイム・シフトと言うべき流れが現在起きているのだということがよくわかる内容でした。

番組の舞台はドイツ。現在EUで最も意欲的に再生エネルギーの普及を行っているその取り組みが紹介されます。ドイツの再エネへの取り組みはネット上で一部の層から失敗として揶揄されることもありますが、それらの意見の正誤も理解できる内容であると感じました。いくつか印象的な内容を箇条書きにすると、

・再生エネルギーの発電コストは火力・原子力と比較しても遜色ないレベルまで低下している。(この点は第1回でも触れていました)

・一方でドイツではこの15年間で電気料金は2倍近く値上がりしている

・値上がりの主な要因は再エネ普及に関する税金や普及コスト。電気料金の値上がりを重荷に思う市民、企業は多い

・そのため、企業では自社での発電を含めたエネルギー管理を重視し、エネルギーの他社依存からの脱却の流れが生まれ始めている

・再生エネルギーへのシフトは、電力会社のビジネスモデルに大きな変更を強いることになる。

・従来のモデルでは、上流(発電)は少数の大規模な発電所(火力、原子力)で電力を集中して生み出し、下流(送電)に流していた。このモデルでは電力の安定化のカギを握るのは上流であり、下流は複雑な管理は不要だった。

・再エネへのシフトが進むと、上流(発電)は多数の中小規模な発電所(風力、太陽光等)に分散する。各発電所の電力量や安定性にはむらがあり、そのため安定化のカギを握るのは下流となる。

・電力会社にとっての利益の源泉が発電から送電へのシフトする傾向にある。(送電網の建設・維持には膨大なコストがかかるので、巨大電力会社は今後発電から撤退して送電に経営資源を集中する流れが生まれつつある)

・再エネへのシフトに伴う送電網の管理の複雑化と負荷の高まりは膨大であり、そのため発電量・消費量の予測を基にした管理が不可欠となっている。(予測ができないと送電網が負荷に耐えられない。正に時間単位で発電量の調整を行うことも行われている)

・そのためビッグデータを活用した生産、消費量の予測技術のニーズが高まり、そのビジネスチャンスも広がっている。

・今後はスマートメーターの普及と活用を進めることで、より生産・消費量の予測精度を向上させるのみならず、そこから得られるデータを活用した新たなビジネスも見込まれる。

 

などなど。1消費者としては感じるものは少ないかもしれませんが、電力の生産・消費・管理と言う面で構造が大きく変わりつつある現状がよく分かります。番組の中でリコーの執行役員の方が「日本での環境への取り組みは専らコスト削減だが、欧米ではすでに新規の事業開拓となっている」とその意識のずれを語っていましたが、その言葉を鑑みるとやはりこの「脱炭素」の流れは止まらないと感じさせられます。すでに「地球環境が危ないから」とか「コストを削減すなければ」といったいわば後ろ向きの理由からの取り組みではなく、「脱炭素」を積極的に新しいビジネスとして展開しようとする取り組みにシフトしているとすれば、そう簡単に流れと言うものは止まるものではないからです。

日本の場合、発電における再エネシフトへの取り組みがどうしても見劣りしますが、平地の少ない島国であるという特性上やむをえない部分はあるのでしょう。(番組では触れられませんでしたが、欧州では国を超えて電力の売買が可能なので、総発電量のうち一定程度外国に依存する部分もあります)

一方送電に関しては、スマートメーターの普及は3割近くとなっており、意外にスマート化が進んでいる印象を受けます。もっとも日本の場合、ハードの普及は迅速なのに反して、ソフトやデータの活用やマネジメントの変更が遅れがちなので、メーターの普及で満足しないことが望まれます。

また、番組ではドイツの取り組みをかなり肯定的に紹介していましたが、それでも炭素燃料による発電の割合はいまだ高く、また再エネ普及への取り組みにも日々見直しの目がかけられていることも事実なようです。

ドイツ|データ集|一般社団法人 海外電力調査会(JEPIC)

さらにもう1点気になったのは、再エネへのシフトに伴う送電網の管理の複雑化です。上流も下流も分散化し、発電側が天候にも左右される再エネ後の電力運用はすでに人の手では管理できないほど複雑化しています。工場の生産管理や企業の業務システムの開発に関わった経験のある方なら理解できると思いますが、システムが複雑になるほど細かい障害は多くなり、その複合的な発生による大規模障害が発生するリスクは高まります。番組を観ていると、送電網システムの障害やダウンによる大規模停電のリスクは従来型のモデルよりは高まるのではないかと懸念されます。(もっとも停電を起こさないための管理システムなのでこれは鼬ごっこと言うべきなのですが、送電の管理コストは確実に上昇するでしょう)

第1回の内容も合わせた感想として、欧米ですでに「脱炭素」が利益を生み出す取り組みとして進められている以上この流れはやはり止まらない、と言う点に変わりはありません。正直アメリカがパリ協定から脱退しても、アメリカの企業は「脱炭素」に取り組まざるを得ないというのが今日の現実なのでしょう。一方でますますシステムが複雑化していくことへの懸念も感じざるを得ない。それが第2回までを見た感想ですね。