NHKドキュメンタリー「シリーズ“脱炭素革命”(3)「激変する世界ビジネス グローバル企業の挑戦」」:最後はやや尻すぼみ

NHKドキュメンタリー「シリーズ”脱炭素革命”」の3本目「激変する世界ビジネス グローバル企業の挑戦」を視聴しました。

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脱炭素革命の潮流を、金融面から追った1本目、電力事業から捉えた2本目に続く3本目は、個別企業の取り組みを追った内容でした。

どちらかと言えば各企業の取り組み紹介と言った内容であるため、個別事例としては興味深くあるものの、1,2本目のように目新しいトピックが織り込まれたものではありませんでした。とは言うものの、世界最大のCO2産出国である中国の脱炭素への取り組みにはやはり驚かされます。パリ協定前の京都議定書のころはCO2削減なんて箸にも棒にもかけない、と言った態度であったのに、精々10年でこの変わりようです。

結局大気汚染などの環境問題が、内政面でも無視できないレベルに達したことが一つの原因ではあると思われますが(中国は外圧では容易に政策を変える国ではない)、一方でその方針転換の速さと、潮流を自身の利益追求に結びつけようとする強かさはさすがと言うより他ありません。

一方で日本の場合、未だに石炭火力発電を推進しているということで、COP23で「環境に悪影響を与える国」として非難されている様子が番組でも紹介されていました。こと”脱炭素”の分野では既に中国が推進役である一方、日本は時代遅れの悪役扱いとなっている姿が非常に対照的です。いまだに国内では日本は優れた環境技術を持つ環境先進国で、中国は大気汚染のひどい公害大国という認識を持っている人は少なくないと思いますが、こと”脱炭素”のテーマに関しては日中のイメージがすでに逆転しつつあることはもっと多くの人に知られても良いでしょう。

シリーズ3本を通して観た印象として、このままこの”脱炭素”の潮流が進めば、10年とは言いませんが30年後の産業や我々の生活には大きな変化が免れないでしょう。日本は現在その流れにうまく乗り切れていない印象が否めませんが、人口減少が続き、エネルギーの急激な増加が見込まれず、すでに省エネ化も進んでいる日本は”脱炭素”には取り組みやすい環境でもあるはずなのですね。現在はその環境がかえって危機感の醸成を妨げているようですが、この番組を一例として”脱炭素”の潮流に対する啓蒙が進んでゆくことが期待されます。

最後に2点ほど本シリーズを観て感じた疑問をメモ代わりに残します。

 

・鉄鋼産業と”脱炭素”の関係は?

石炭を大量に消費し、CO2を排出する産業の代表と言えば鉄鋼産業ですが、その鉄鋼業界の”脱炭素”への取り組みへの言及がなかった。鉄が”産業のコメ”である現実は早々に変わらないと思うが、一方でコークス炉中心の鉄鋼業が電炉化する流れは生産規模、効率の面で考えづらい(この点は自分の知識が十分ではないからかもしれないが)。金融業界脱炭素への取り組みに乏しい企業から投資を引き上げる方向に動いているらしいが、鉄鋼業界はその対象となっているのか?まさか生産を途上国で行うから問題ないというわけでは無いでしょうし(欧米の機関投資家はこのあたりの選定基準が厳しいと聞いているのだが)

・”シェール革命”との関係は?

米国のシェールガス・オイルのリグ数は現在でも増加傾向にあるのですね。

https://jp.investing.com/economic-calendar/baker-hughes-u.s.-rig-count-1652

2016年に一度底を打って以降、緩やかに稼働数は上昇しています。これは脱炭素の潮流からすれば明らかに逆行とも言える動きなのですが、稼働数が増えているということはその分投資も増えているはずなのです。この点も少々気になりました・