『Bioshock Infinite』手堅いゲーム性と挑戦的な背景、テーマ

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※一部ネタバレあり

 

Bioshock Infinite』をクリア。難易度はノーマル。DLCの『Burial at Sea』もクリア。

Bioshock』シリーズの3作目にして外伝的な作品。(とはいえDLCで初代との繋がりが明かされるのではあるが)

本作については様々なブログ等で語られている通り、シリーズ3作の中で最も議論を呼んだ作品となっている。最高傑作と評する人もいれば、前2作ほどは楽しめなかったという人もいるようだが、Steamでの評価を見る限りは前者のほうが多いようである。

自分の評価としても、傑作であるという意見におおむね同意するのだが、それがゲームとしての評価なのかと言うと違うと思う。本作は前作に比べてゲーム性について大きな変更や革新性があるわけでは無いからだ。確かにスカイフックを使用したアクロバティックなアクションには爽快感があるし、ヴィガー(前作、前々作のプラスミドにあたる)や武器にも今作で初登場となるものも多いが、RPG的なFPSとしてもこれまでのBioshockの発展形であり、多少の目新しさを感じる程度のものだ。

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本作の評価の軸となるものは、やはりそのシナリオのテーマとその背景にあるのだろう。『Bioshock Infinite』が『Bioshock1.2』と大きく異なる点はそのシナリオ重視の姿勢にあると考えられる。これまでの2作品がシナリオを軽視していたわけでは無いが、海底都市ラプチャーの魅力的な舞台設定と個性的なキャラクターがシナリオ以上にプレイヤーを引き付けていたと個人的には評価している。

本作についていえば、舞台が海底都市ラプチャーから空中都市コロンビアに移ったことで、その雰囲気を大きく変えている。前作までの特色と言える、薄暗いゴシック的なラプチャーを舞台に狂ったスプライサーが突如湧き出るホラー的な怖さは無くなった。空中都市コロンビアでは、外に目を向ければ常に大空が広がっており、前作までに感じたような息苦しいほどの閉そく感とは無縁だ。特にゲームの前半は屋外には陽光が燦燦と輝いており、18世紀のアメリカ南部を模したような町のたたずまいも含めて開放感と明るい雰囲気に満ちており、前2作との対象を成している。

一方でゲームを進めるほどに、街の雰囲気にそぐわない違和感を感じる。空中都市コロンビアは、いわば「アメリカ例外主義」の極端なカリカチュアとなっており、その思想の端々が住民の会話、ポスター、キネスコープから読み取ることが出来る。楽園そのものに見えるコロンビアの裏にある特異な思想が違和感としてプレイヤーに突き刺さる。ここに明らかな開発者の意図が感じられる。なるほど。この不安感と言うものは確かにBioshockだと正直唸った。

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また、主人公についても前2作の主人公がいわばプレイヤーの投影だったことと比較すると、本作の主人公ブッカー・デュイットは明らかにプレイヤーとは別の存在だ。前2作では終始喋ることがなく、人格も経歴も曖昧(だからこそプレイヤーの投影となりうる)だった主人公だが、本作の主人公ブッカーは、明確な過去の経歴を持ち、自らの意思を会話としてあらわしている。つまりプレイヤーはゲームを通じてブッカーの物語を追体験しているだけなのだ。

つまり本作は明確に「物語を読ませる」タイプのゲームであり、極論するとプレイそのものはシナリオのおまけにすぎない。そのため前2作のような単純なハッピーエンドとは異なる、非常に評価の難しいエンディングとなっている。そのあたりが考察のしがいもあり、高い評価のもととなっているのではないだろうか。

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これはおそらく開発者が描きたかった物語を、『Bioshock』というフレームに当てはめて制作したものなのだろう。『Bioshock』というIPが一定の評価と支持を得ていることを考えるとこの開発者の姿勢は実に挑戦的だ。背景となる思想(断っておくと開発者はその思想を是としているわけでは無い)も、「報われない贖罪』と言う物語のテーマも決して大衆受けする要素ではない。ゲームプレイについては前作の要素を踏襲しつつ、テーマやシナリオの側面で革新性を見せるというこの手法は、旧来ファンの離反というリスクをはらみつつも、マンネリを避ける大きな要素となっており、その挑戦は成功したと言えるだろう。

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しかしこれは3作通じて言えることだが、このシリーズは本当にグラフィックが素晴らしい。とにかく絵になる場面が多すぎるのだ。近年の大作に比較すればその時代なりの技術なのだが、デザインがとにかく秀逸で魅力的だ。ここ2,3年の作品と比較しても本作に匹敵する魅力的な絵面を持つ作品はそうないだろう。

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また、本作についてはDLCの内容が非常に良かった。もし本編のシナリオを気に入ったのならばぜひDLCもプレイすることを勧めたい。言ってみれば本作はDLCを以てシナリオが完結すると言えるからだ。

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DLCの特に『Burial at Sea 2 』はかなりステルス要素が強い作品なので、通常難易度でも少々厳しい内容なのだが、『Bioshock Infinite』という「贖罪の物語」の結末を見届けるうえでは欠かせない内容だ。Steamのセールなどのタイミングで買っておいて損はないだろう。