『ダークソウルⅢ』プレイヤーへの信頼から生まれた傑作 ②

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ダークソウルⅢ感想の続き。前半では主にゲームプレイについて語ってきたが、後半ではその物語世界についての感想を記していきたい。

滅びと死に彩られた至高のダーク・ファンタジー

ダークソウルシリーズの世界は「はじまりの火」によって生まれた世界とされている。「はじまりの火」は生と死の根源であり、世界に繁栄をもたらす。火は「薪の王」と呼ばれる強大な存在が、自らを燃やすことで維持され、「薪の王」が継承されることで世界は存続している。

シリーズ最終作であるダークソウルⅢでは、歴代の薪の王達がその玉座を去り、火の継承が途絶え、滅びに向かわんとしている時代が舞台となっている。

主人公である不死者は”火のない灰”と呼ばれ、王達を再びその玉座に戻し、新たな火継ぎを行うために旅にでる役割を負っている。「玉座に戻す」とは薪の王達を打ち倒し、その身に宿す力を以て新たな火の継承を行うことだ。薪の王を倒すため、王たちの故郷を目指して主人公は旅立つ。

これは所謂光と影、正義と悪を描く類の物語ではない。世界そのものを描く物語と言ってよい。火を継ぐための旅である主人公の道程は、世界の成り立ちそのものなのである。

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主人公が旅する世界は滅びに瀕しつつあり、亡者や怪物のあふれた危険なものだ。会話すら通じる者は少なく、あるのは瓦礫の廃墟と燻る煙のみ。その救いのない世界の有様は、ゲームそのものの難易度と絶妙な相乗効果をもってプレイヤーの心を侵食してゆく。

本作の演出で秀逸な点は、その物語世界の語り方だ。実のところ上記したようなストーリーラインはゲーム内で明確に語られるわけでは無い。それどころか公式サイトにすらほとんど説明が無いのである。

主人公は訳の分からぬ状態で目覚め、ろくな説明も受けずに薪の王たちの故郷を目指す旅に出る。物語や世界の成り立ちは、断片的にしか示されない。例えば本作では武器や防具、アイテムの一つ一つに至るまでに用意された膨大なフレーバーテキストが存在する。その中で過去の事象、人物、薪の王達の素性などがわずかながらに示唆され、それを繋ぎ合わせて世界観や物語を浮かび上がらせるのだ。

また、物言わぬ亡者があふれるこの世界にも、僅かながらに意志の通じる者たちが存在する。彼らはNPCとして時に味方として、敵として、傍観者として主人公に関わる。彼らそれぞれにも物語があり、そのイベントをこなすことでまた、世界についての情報を得て物語の輪郭が浮かんでくるのだ。

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ダークソウル神話とも言うべき荘厳であり、暗い魅力を放つ物語にはこの演出が適している。くどくどと説明過剰な演出は興ざめすることを、製作者たちは良く理解している。それでもこの物語の説明を大幅に省く演出は、良く思い切ったものだと思う。実のところ、この演出は手抜きでは決してない。むしろ分かりやすい説明を抜いた分、フレーバーテキストNPCイベントなどの周辺に情報を散りばめるという非常に手間のかかる演出だ。プレイヤーに創造と考察の余地を与えるこの方法は、下手をすると不評を買いかねないリスクがあるのだが、考察サイトなどの盛り上がりを見ると、本作は物語の演出面でも成功していると言えるだろう。

また、火の継承という「大きな物語」を補完するのが、「小さな物語」ともいえるNPC達のドラマだ。彼らはそれぞれ非業とも言える運命を背負っている。火継ぎの使命に心折れた者、自らの信仰を殺すもの、祖父の願いをかなえるために旅する騎士など様々だ

そんな彼らとの関わりが主人公の物語に暗い色どりを添える。

中でもやはり「カタリナのジークバルト」のイベントが出色の出来だ。ユーモラスなタマネギ型の鎧兜に身を固めたカタリナ騎士は、ダークソウルのマスコットとも呼べる存在だが、そのユーモラスな造形と、泰然としてお人好しなキャラもあり、本作唯一の癒しとも言うべき「カタリナのジークバルト」。そんな彼も重大な使命を秘めて旅をしている。その古き友との約束を果たすための旅の果ては、心を揺さぶられずにはいられない。このイベントを直に見たくて本作を購入したと言っても良いほどだ。まったく卑怯な作品だ。カタリナにあんなイベントを用意されたらファンにならずにいられないではないか。

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ビジュアル面のデザインがまた秀逸だ。この暗い物語をこの上なく効果的に演出する素晴らしい出来と言える。

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旅の舞台となる地はどれも特徴的で、思わずスクリーン・ショットを撮りたくなるものばかりだ。クリアするまでに100枚以上撮ってしまったほどだ。

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さらに本作では多くの武器、防具が存在しているが、全ての造形が異なり、全てゲームプレイのみならずイベントシーンにまで反映される。この細かい演出は没入感を否応なく高める。細かいところまで良く出来ている。

本作は一般的にその難易度の高さが評判の作品だが、実際にプレイしてみるとその物語や演出においても非常に品質の高い、優れた作品だと感じた。

 

長くなったので三度稿を分ける。③では本作の総評を書くこととする。