ジョン・ウィック チャプター2:見どころはアクションだけ。つまり最高の映画。
評価:4点(5点満点中)
総評:
Movie-Plusで放映していた『ジョン・ウィック チャプター2』についての感想。前作は視聴済。
しかしまあ、本作の制作陣は求められるものが何かを分かっている。そして、バランスの崩壊を恐れずに振り切るその決断も讃えたい。
本作の売りであり、ファンが求めるもの。それは何と言ってもアクションだ。映画の冒頭から出し惜しみは一切なしだ。バラエティに富んだアクションシーンがノン・ストップで畳みかける。2時間近い上映時間の本作だが、おそらくその7割近くがアクション・シーンだ。そして残りの2割5分はアクション・シーンの為の舞台装置、残りの5%がシナリオ。極端に言えばそれほどアクションに振り切った作品だ。
アクションが売りの本作で、シナリオはもはや重要ではない。引退した伝説の殺し屋が再び銃を取る。それだけで十分だ。そう言わんばかりに筋立ての説明も非常に乏しい。冒頭のアクションシーン(本筋に一切関係が無いところがこの作品らしい)の後、物語の導入でいきなり説明もなしに”誓印”がどうのと関係も分からぬ人物から絡まれ、挙句の果てに家を爆破される。ジョン・ウィックは無口で抑揚の乏しい男だが、映画そのものも言葉数が少ない。それが却って本作の雰囲気を醸し出す効果になっている気がする、というのは誉め過ぎか。複雑な構成も、驚くような展開も、凝った伏線も存在しない。シナリオ重視の作品を好むファンには、まあ訴求しない作品だ。
畢竟アクション以外の要素は須らくその引き立てが目的となる。この映画、アクション以外の要素は全て”如何にイカしたアクションを見せるか”という目的のための演出と言っても良い。
裏世界の仕事人へサービスを提供する”コンチネンタル”がその筆頭だ。どうやら世界中に支部があるらしいこの組織、本作ではイタリアの支部が登場する。
ジョンが”仕事”の準備のために立ち寄るわけだが、そこで利用するサービスがまたけれん味に溢れている。街角の古本屋、縫製工場、ホテルのワインセラー。それぞれが施設の見取り図、防弾スーツ、銃器の提供を行っている。
重ねて言うが、このような仕掛けは全く映画の本筋には関係がない。このような演出は全て、ジョンのアクション・シーンを盛り上げるためのエッセンスだ。そこにこれだけの手間をかけるセンスは最高に素晴らしい。
そして見どころのアクションだ。本作のアクションは、ハリウッドで主流のマッスル&エクスプロージョンとはだいぶ趣が異なる。メインは銃と格闘だ。どちらかと言えばカンフー映画のスピード感と香港ノワールの美意識を足し合わせたテイストと言える。
何せ大半の時間がアクションに費やされる映画だ。次から次に趣向の異なるアクションの繰り返しだ。カー・チェイス、素手での格闘、ガンフー、銃撃戦、ナイフ・バトルと数え上げればキリがない。そして、本作はただボリュームを詰め込んだだけの作品ではない。如何にカッコよくアクションを見せるか、その点にあきれるほどこだわる。
例えば駅のシーンでは、
噴水の前を歩くジョン。
噴水が止まるとそこには、
ジョンを狙う殺し屋カシアンの姿が。
他にも、駅構内のシーンでは、
ホームへ向かう通路。階を挟んで対峙する2人。
周囲の群衆にバレぬよう、サイレンサー拳銃で静かに撃ち合う。
ちなみにこの前の噴水のシーンで既に騒ぎを起こしているので、ここで密かに撃ち合う必然性はない。でもカッコよければいいのだ、制作陣的には。多分。
一事が万事。アクション・シーンは全編を通じて凝った演出に満ちている。本作の7割以上がアクション・シーンだと言ったが、それでいて2時間近い尺を飽きさせないだけの魅力が詰まっている。流れるようにアクションを見続けていたら、いつの間にか時間が経過している作品だ。
キャストも良い。主役のジョンを演じるキアヌ・リーブスをはじめ、癖のあるキャラクターを演じるにベストなキャスティングだ。
キアヌ・リーブスは本来芸達者なタイプの役者ではないが、寡黙で抑揚のないジョンのキャラにはよく合っている。
久々にキアヌと共演のローレンス・フィッシュバーン。出番は少ないが、存在感は群を抜いている。
ルビー・ローズも細身のスーツに身を包んだ唖の殺し屋アレスをスタイリッシュに演じる。アレスとカシアンは、その死が明確に描かれていないところを見ると、次回作に登場させるつもりなのかもしれない。
とにかくアクションを魅せるため、アクションに全振りした作品。それが本作だ。どう考えてもその狙いは万人向けではない。ここまでの思い切りが出来たのも、前作のスマッシュ・ヒットがあった故ではあろうが、それでもその決断が前作を超えるヒットに結びついたということは称賛に値する。この手のアクが強いタイプの作品は、大ヒットか爆死、いずれかの結果に終わることが多い。そのため2作目と言うのはアクを抜き、凡庸化するリスクが最も高くなるが、本作はリスクに怯むことなくさらにギアを上げた。これなら次回作も期待できそうだ。
復讐を果たしたジョンは、”コンチネンタル”を追われ、世界中の殺し屋から標的とされる。走り去るジョンの姿で映画は終幕する。露骨な次回作への繋ぎではあるが、本作の場合、これが物語の結末となっても、なかなか余韻のあるエンディングとなって良いとも思えた。既に次回作の公開は決まっているが、やはりコンチネンタルが主たる敵となるのだろうか?久々に劇場に足を運んでも良いかもしれない。本作はそれだけの価値はあるシリーズだと思う。
ちなみにこのシーン、自分は密かに次回作への伏線だと考えている。次回作のラストシーンが、2030年にオーレリオの店に車を引き取りに来るジョン、とかいう展開になったら最高だ。