『NieR:Automata 』 メインルートクリア後感想:全体的に高品質なるも演出に不満が残る

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『NieR:Automata 』Eエンドをクリアしたので総評。

プレイ時間は42時間。拾えるサブクエストはまめにこなしていたこと、Aルートのクリアまでに20時間近くかかったことを考えると、所謂3週目であるC,D,Eエンドは意外にボリュームが少ないと言える。とはいえサブクエストも3割弱残っている状態なので、それら全てを達成し、トロコンまで目指せばプレイ時間は100時間近くになるだろう。オープンワールドRPGとしては標準的なボリュームといったところか。

ゲームプレイについて

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本作のジャンルはアクションRPGだが、流石アクションに定評のあるプラチナゲームズ作成だけあり、高速かつ機動的なアクションを楽しむことが出来る。また、アクションの派手さとは裏腹に、操作自体はそれほど複雑でもなく、初心者に対する敷居が低い点も評価できる。一方で近距離の強弱や、ポッドによる多彩な遠距離攻撃などの選択肢がありながら、それらを戦略的に選択する場面が少なく、ほとんどの場合遠距離攻撃を打ちながらの近距離ごり押しで対応できるため、戦闘自体は単調になりがちだ。この点は敷居を低くするために仕方のない部分と言えるが、後半に進むほどに戦闘が作業になりがちになるのは否めないだろう。

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せめてボス戦がそれを補う役割を果たしてくれれば良いのだが、本作のボスは基本的にモブキャラの強化版レベルで、体力、手数こそ強化されているとはいえ、攻撃のバリエーションが異なるわけでは無く、それゆえにモブ相手の戦闘の延長でしかない。折角優れた戦闘アクションを実装したのだから、特徴とやり応えのあるボスが3,4体いるだけで、ゲームプレイの質は格段に上がったことだろう。その点が惜しまれる。

シナリオ・ストーリーについて

本作の物語部分については、1週目クリア時に予想した内容がある程度あたっていたようだ。ループ云々の部分は的外れだったが、既に人類が滅亡していること、アンドロイドと機械生命体の抗争が予定調和なものであることなどは予想通りだった。1週目からある程度それらを示唆する情報が散りばめられていたので、これらの点は特に意外性は無かった。

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人類を守り、勝利に導くことが存在意義であるアンドロイドにとって、既に人類が滅びた世界を描く本作は、「既に敗北した」物語であり、欺瞞というフィクションを生きる者たちの物語だ。敗北は確定しており、大逆転の余地はなく、故にカタルシスを伴う大団円はあり得ない。そのため如何にその滅びの様子を描くことが出来るのかが作品にとって重要となる。その意味でトゥルーエンドにあたるEエンディングは蛇足のようなものだ。ハッピーエンドなしでは納得できない層向けのおまけのようなものと捉えるべきだろう。

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故に物語の評価としてはA2シナリオのCエンド、9SシナリオのDエンドが対象となるのだが、ここで問題となるのが3週目における2Bの退場とA2への主人公交代の是非だろう。ライターの意図は分からないが、個人的にはこれは失敗ではなかったかと思う。

本作のラストバトルは、ラスボスである「概念人格」や機械生命体ではなく、生き残ったアンドロイドである9SとA2によるものであり、結末のやりきれなさを象徴するものだ。しかし9S、A2はともにヨルハ計画に対して妄信的でないという共通の視点があり、本来敵対する立場ではない。その両名が最終的に敵対するに至ったのは、A2がウイルス汚染された2Bに引導を渡したことに対する9Sの個人的な感情に起因する。結果として2Bの退場は、9S視点の物語の情感を盛り上げるだけの装置となり、2Bの喪失と憎悪に突き動かされる9Sの復讐譚という小さな物語にまとまる結果となったように思える。この場合、プレイアブルキャラに昇格したA2も結局脇役のままであり、Cエンドの不完全燃焼感は否めない。

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2Bを退場させるのであれば、A2についてはもっと深掘りが必要であり、少なくとも作中で9SとA2の和解が無ければ、大きな物語への昇華は難しいだろう。この点は正直ボリューム不足が否めない。結果として9Sが駄々っ子で終わった印象があり、A2の書き込み不足も含めてもったいないと思う。

2Bをそのまま生かしておく方が、物語の構成もドラマの展開も容易だと思うのだが、この辺りはライターの意図が不明だ。ただ言える点としては、本作は結果的に2B、9S、A2の群像劇となっているのだが、これは本来ライターが意図したことではなく、むしろ3者から物語の主人公を絞り切れなかったため、3者それぞれを描く結果となったのではないか、と言うことだ。3者それぞれの書き込みの足りなさを見るとそう判断するのが妥当ではないかと思える。

結論として、本作は「定められた敗北」を描く物語としては、それなりに妥当な落としどころに終着したが、ドラマの書き込みについては物足りないものだったと言える。

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演出面について

1週目の感想で書いたように、世界観の基礎となるキャラクターやフィールドデザイン、そして音楽面は本当に素晴らしい。本作を未体験のプレイヤーを引き込む要素としてこれほど素晴らしいものはそう見られない。その点は満点だ。素晴らしい音楽を背景に、美しい廃墟の中を自由に駆け回る。オープンワールドにおける至福ともいえる体験であり、本作はかなりの高品質でそれを提供していると言えるだろう。

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しかし、本作で見逃せない演出面での不満がある。それは、ゲームのプレイを演出に取り込む手法である。

具体的には2点あげられる。1点目は3週目の序盤、2Bが退場するシーンだ。当該シーンでは、ウイルスに侵食された2Bが、徐々に身体機能を失いつつ逃亡する様が延々描かれるのだが、特徴的なのはそのシーン中プレイヤーが2Bを操作し続ける点だ。

このシーンで2Bはウイルスに侵食されているため、攻撃もダッシュもジャンプも出来ず、敵キャラの攻撃をかわしつつひたすら逃げ回るより他ない。これまでの軽快なアクションとの対比させた演出として、不自由な2Bの操作をプレイヤーに強いているのだろう。

しかし、長すぎるのだ。延々と目的地まで、しかもショートカットできない遠回りでの工程を強いられる。ウイルスの進行を表現するように、段階的に機能が制限される。(初期段階で時々通常操作に戻るのもイライラを助長する)。しかも時間内に目的ににたどり着けなければ実質ゲームオーバーだ。ゲームプレイを演出に取り込むのは、本来没入感を高めることが目的だが、これでは演出にならない。単に退屈なプレイを強制しているだけの、ただのストレスだ。終盤のシナリオで、9Sにも同様の演出を行う兆候が見えたときは流石にコントローラーを投げ出しかけた。

2点目は9Sプレイ時の戦闘における「ハッキング」要素だ。支援キャラとしての位置づけである9Sは、戦闘場面において通常攻撃以外に相手にハッキングすることで内部攻撃粉うことが可能だ。また、ハッキングは戦闘以外に宝箱や開錠など様々な場面で登場する。この「ハッキング」だが、名前はともかくその実はただの「シューティングゲーム」だ。そのため自分のようなシューティングゲームが苦手な層には全く訴求しない要素だ。

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とはいえあくまでそれは1プレイヤーの好みにすぎない。問題なのは、この「ハッキング」とやらを、シナリオ上強制されることだ。一部のシナリオでは「ハッキング」をクリアしないと物語が進行しない。ところがこの「ハッキング」、なんとレベルアップに一切関係が無いのだ。その時点でどれだけレベルを上げていても、耐久力や攻撃力は全く変化しない。その状態で、シナリオ上「ハッキング」を強制されるため、そのクリアに何度もトライしなければならず、結果として作品を賞味するリズムを完全に乱されることになる。「ハッキング」と言う要素を通常のバトルとは別に表現したかった、という意図は分かるが、それがかえってプレイヤーの阻害要因となるのは本末転倒だろう。

ウイルスの侵食演出にせよ、「ハッキング」にせよ、致命的なのは、おそらく本来の意図である演出の役割を果たせていないばかりか、ユーザーにとってのストレスになるというネガティブ要因となりうる点だ。これだけ人を惹きつける、優れた世界観を持つゲームでありながら、上記の2点において自分は本作を途中でやめることを考えたのだから、そのネガティブっぷりは相当なものだ。

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これも推測にすぎないのだが、これらの演出を考案したデザイナーは、発売前に本作を通しでプレイしていないのではないだろうか?当該部分だけをテストして、自己満足に浸っていたのではないだろうか?正直通しでプレイしたうえで、この退屈さ、このストレスを放置するとは考えられない。トゥルーエンドであるEエンドまでこの「ハッキング」に付き合わされた時の馬鹿馬鹿しさは正直言葉にならない。長々とエンドロール終了まで付き合わされたのでは、エンディングの余韻もなにもあったものではなく、Eエンドの評価が辛いのも半分以上この演出のせいだ。

本作の演出は、全般的に高水準と言っていいのだが、この「ゲームプレイの演出への取り込み」に関しては、デザイナーの自己満足と思い込みが先走った大失敗としか言いようがないと思う。

総評 全体的に高水準だが、一部演出で台無し

これまで書いてきたように、『NieR:Automata 』は実に魅力的なゲームだ。世界観、音楽、デザイン、プレイ感覚全てにおいて高水準であり、同時に他の作品にない個性を併せ持つ作品だ。一方で、演出面においてかなり人を選ぶ作品であることも間違いない。自分のように本作の演出が全く肌に合わないプレイヤーにとって、その手法は物語の余韻を破壊する無粋なものであり、シナリオ面での評価を大きく下げる一因ともなりうる。

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本作を人に勧めるのはなかなかに難しい。おそらく演出面での好みに大きく左右されるからだ。とはいえセール時に半額以下の値段であるならば、問題なく進められる作品だと言えるだろう。あの演出さえなければ...と思わずにいられない。

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