『SOMA』 真の恐怖は自分自身

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『SOMA』をクリア。プレイ時間は11時間程度。

 

ゲームプレイはFPS+アドベンチャー。ジャンルはホラーと言うよりはサイコサスペンスと言うべき内容であると思う。

ゲームプレイ自体は、FPS形式となっているとはいえ、昔ながらの総当たり式アドベンチャーゲームに近いと言える。ある程度の示唆はあるものの、基本的には移動可能なエリアを探索し、アクセス可能なオブジェクトを探してシナリオを進めていく形式だ。時折パズルのようなミニゲーム形式のオブジェクトなども挿入されるが、プレイそのものはあくまでもシナリオを進行させるための没入感を高めるための添え物で、プレイ形式自身が特徴的でも新鮮なわけでは無い。

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このゲーム、特徴的であるのは自ら”ホラー”を謳っておきながら、敵が一切出てこない「セーフモード」を実装していることだ。「セーフモード」ではプレイヤーの脅威となる敵キャラクターが登場しないため、探索とシナリオに専念することが出来る。しかし、そもそも「敵」キャラクターが存在しないホラーゲームはホラーとして成立するのか?敵の存在しない『バイオハザード』『サイレント・ヒル』『DBD』を想像できるだろうか?普通ならばあり得ない。

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本作のユニークさはここにある。凶悪な敵キャラでもなく、心胆寒からしめる演出でもなく、物語そのものを恐怖として提示する。寧ろ古典的な怪奇小説の手法だが、ゲームというメディアにおけるホラージャンルが確立されると、意外にこれが新鮮な内容となりうるのだと実感した。

物語は現在のカナダ。主人公サイモン・ジャレッドが交通事故に遭う場面から開始される。事故で脳に大きな損傷を受けたサイモンは、余命幾許もないと診断され、その状況を好転させるために、トロントのクリニックで先進的な治療を受ける決心をする。クリニックを訪れたサイモンは、治療のために脳のスキャニングを受けることになる。閉鎖されたスキャナーから退出したサイモンが見たのは、訪れたクリニックではなく、荒れ果てた研究施設のような建物だった...

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以上が本作のイントロダクションだ。ここはどこなのか?なぜ自分がここにいるのか?その2点を出発点に、サイモンは探索を始めることになる。そしてその出発点こそが、本作における恐怖の本質ともいえる部分なのである。ありふれていながらもこれは非常に良く出来た導入部であると感じた。

これ以上はネタバレとなるので詳細を語ることが出来ない。ネタバレを書くことを特段制限しているわけでは無いが、本作についてはネタバレがプレイする意味をなくしてしまいかねない。本稿の表題が本稿で書くことのできる最大限のネタバレと言えるだろう。ちなみに本作にはホラーでは当たり前な「説明不可能な存在」は出てこない。それは怪物でも怪現象でも何でもよい。「説明不可能」であることが恐怖の根源であり、ホラーをホラーたらしめる本質と言っても良い。しかし本作にはそれが無い。冒頭で本作を「ホラーと言うよりサイコサスペンス」と評した所以である。しかし、それでもなお本作は「ホラー」と呼ぶに足りうる恐怖を備えている。恐怖の対象となるのは己自身の存在だ。故に本作は敵が出てこないセーフモードでプレイしても、ホラーゲームとしての本質が損なわれない作品なのである。

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ちなみに本作のベースとなっているテクノロジーについては、現実の世界でも実際の研究対象となっている。昨年NHK-BSで放送された『不老不死を追いかける男たち』で紹介されていた内容がそれだ。まだまだ基礎研究と言える段階にすら至っていない印象ではあったものの、これが実用レベルにまで高められた時、本作の恐怖は現実のものとなる。例えば30年後の世界を想像したとき、その技術は到底実現不可能と言えるだろうか?本作から得ることが出来るもう一つの「恐怖」と言えるだろう。

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