『Spec Ops:The Line』 ゲームを”楽しむ”ことの本質

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『Spec Ops:The Line』をクリア。所要時間は6時間ほどなので、小品と言って良い作品だろう。ジャンルはリアル系TPS。SCARやSWAなど、実際に存在する銃を使用し、一方でPerkなどの特殊能力やレーザーなどの超化学も存在しない。

TPSシューターとしてはそれなりの水準を達成していると言えるだろう。個人的にはかなり難しいと感じた。Perkが無く、自然回復以外の回復手段が無いため、結構簡単に死ぬ。ノーマルではクリアできないポイントが多かったため、難易度をイージーに変えたが、それでも結構な頻度で死亡した。正直ノーマル以上の難易度でクリアできたかどうか怪しいと思う。チェックポイントが細かく、大体において死亡した戦闘から再開するのでストレスは少ない。遮蔽物に隠れ、敵を倒しつつ、カバー移動でラインを押し上げるのが戦闘の基本なので、The Divisionなどをプレイした経験があればそれほど苦も無くプレイできるだろう。意外と敵が攻撃を仕掛けてくる範囲が広く、隠れた先が敵に丸見えで正面から銃撃されることもしばしば。周りの状況を見ながら次に進むルートを考えて行動するなど、戦術的な立ち回りも要求されるので、中々にやり応えがあるゲームだった。

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しかし本作について感想を書くのであれば、書くべき内容はそのプレイ内容ではないだろう。本作はそのシナリオが高く評価されているゲームであり、自分がプレイしたのもそれが目的だ。

本作の舞台はドバイ。史上最大級の砂嵐に襲われ、多くの市民が取り残されている中、その救出に派遣されたアメリカ陸軍第33歩兵大隊が消息を絶つ。プレイヤーはデルタ・フォース隊員ウォーカー大尉として第33部隊の調査、捜索のためドバイの地に降り立つ。

ネタバレを避けるために詳細は省くが、実のところシナリオそのものについてはそれほど楽しめるものではなかった。おそらくそれは製作者の意図通りの反応なのだろう。ドバイに到着したウォーカー(すなわちプレイヤー自身)が味わうのは血と硝煙にまみれた陰惨な戦場だ。そこにカタルシスは存在しない。

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第33部隊はドバイを占拠し、市民を虐殺しており、ウォーカーは自らが捜索するはずだった部隊を相手にした戦闘を余儀なくされ、その過程で多くの虐殺の痕跡を目にすることになる。

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何故第33部隊はこのような行為を行っているのか?理由も分からぬままプレイヤーは戦うしかない。本作でプレイヤーは、いわば五里霧中の状態で状況に巻き込まれ、流されるように戦闘を続ける。最後に倒すべきボスキャラや達成すべき目的があるわけでは無い。しかも相手は本来友軍である部隊だ。ゴア表現も含む演出も効果的に、その救いのない状況を掻き立てる。

ここで問われるのは本作をプレイする意味だ。目的もなく、カタルシスもない本作をなぜプレイするのか?

ゲームをプレイする目的は人それぞれだ。楽しむため。カタルシスを得るため。そのストーリーに耽溺するため。ジャンルによっても様々だろう。

本作の制作陣は、「リアル系シューター」というジャンルを”楽しむ”ことそのものに対する一つの問いを投げかけていると感じる。それは「リアル系シューター」の”リアル”とは何か?それは本来”楽しむ”ものなのか?ということだ。シューターにおける!リアル”は言うまでもなく「戦場のリアル」だ。実際に存在する兵器を駆使し、思う存分に弾丸をぶっ放して敵を殲滅する。それが「リアル系シューター」の楽しみであり、面白さだろう。

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しかし製作者はそこに疑問を投げかける。そもそもリアルな「戦場」は楽しむものではない。そこにあるのは悲惨で陰惨な現実だ。ならば「リアル系」を謳う作品もそうあるべきではないのか?救いのないこの現実を突きつけることもまた、「リアル系」シューターの目的ではないのか?

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それが本当に製作者の意図であるかは分からない、しかし本作は、TPSシューターとしては標準的な品質であり、シナリオについても評判程の出来の良さを感じられなかったが、そのカタルシスを排除した演出と、そこからうかがえる意図が実に特徴的な作品だった。プレイそのものにこれと言った癖があるわけでは無いが、そのアクの強い演出は人を選ぶだろう。

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ボリュームは非常に少ない作品だが、重く、濃い作品だ。ただゲームを楽しみたいというプレイヤーには向かない一種の”劇薬”だ。プレイする際にはご用心を。

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