『Half-Life』 現代FPSの源流を訪ねて

f:id:Martin-A:20190615123617j:plain

Half-Life』をクリア。所要時間は18時間ほど。

 

 

今更の『Half-Life

本作のリリースは1998年。20年以上も昔の作品だ。なぜ今更そんなレトロゲームをプレイするのか?仕事の忙しさから15年近くゲームをプレイすることもなくなっていたが、3年ほど前から、またプレイするようになった。再開後は主にSteamでゲームを購入しているが、そこでハマったのがFPSだ。今でこそFPSは世界的にも地位を確立したジャンルだが、自分がゲームを盛んにプレイしていた中高生の頃(およそ30年以上前だ)ははっきり言ってマイナーなジャンルだった。そもそも当時は日本メーカーの黄金期であり、所謂”洋ゲー”自体に触れることが稀だったので、当時洋ゲーの主流となりつつあったFPSはほとんどプレイしていなかったのだ。

『Fallout4』や『Bioshock』を手始めに、『S.T.A.L.K.E.R』『Borderlands』『Wolfenshtain』『Metro』などの著名なシリーズ作品を楽しんできたが、多くのゲームブログ等で、これらのFPSゲーム群の源流と評されていたのが本作『Half-Life』だ。ならば一度プレイしなければなるまいと昨年のウィンターセールで購入しておいた。本作がリリースされた98年と言えば当時自分は大学生。正にゲームから離れつつあった時期であり、当時その存在も把握していなかった作品だ。正にゲーム空白期間を埋める意味合いを持つ作品と言えるだろう。

ストーリー主体且つシームレスなスタイル

f:id:Martin-A:20190615125550j:plain

本作の革命的な要素としてよく指摘されているのが、FPSというジャンルに明確な「シナリオ」を持ち込んだ点だ。当時のFPSは作品の背景となる設定はあったものの、基本的には各ステージで配置された敵を撃破して進める戦闘主体のスタイルが主流で、昔ながらのシューティングゲームと基本的なスタイルは変わらなかったという。その旧世代の始祖にして代表的な作品として『Wolfenshtain 3D』が挙げられるが、この作品、少し前にプレイした『Wolfenstain The New Order』内でミニゲームとしてプレイできるのだが、実際にプレイしてみるとその指摘は良くわかる。当時RPGでは既にFinal Fantasyシリーズ等で、ストーリーに重点を置いた作品が主流となりつつあったが、その要素をFPSに持ち込んだことが本作の革新であると言われている。『Half-Life』では、政府所管の『Black Mesa』研究所に所属する科学者であるゴードン・フリーマン博士が、実験中の事故によりエイリアンの襲撃を受けた研究所からの脱出と真相の究明、そして反撃という物語が、それを妨害するアメリ海兵隊を交えた三つ巴の戦いというシナリオを軸に展開する。ゲームプレイも基本的にシナリオドリヴンな仕組みとなっており、実際一部ボス的キャラを除けば敵キャラの撃破はプレイ上必須ではない(本作のTAS動画を見るとほとんどほとんど敵を倒していないのが分かる)。敵を倒すことではなくシナリオを進めることがゲーム進行の目的となっているスタイルだ。ゲームにおける主体を戦闘からストーリーに置き換え、戦闘をゲーム演出の1要素に位置付ける。今でこそ当たり前でプレイしても驚きはないが、20年前の当時からすれば確かに革命的だ。とかくジャンルを問わずストーリー主体の作品は、「ゲームではなく映画だ」との批判が世に溢れて久しいが、その原点の一つが間違いなく本作ということなのだろう。

f:id:Martin-A:20190615133708j:plain

一方で本作の特徴として挙げられるのは、そのシームレスなプレイスタイルだ。本作はエンディングを除けば所謂ムービーイベントがほとんどない。本作は主人公が研究所に出勤するモノレールに乗っている場面から始まるが、その瞬間からエンディングまでプレイアブルな状態なのだ。シナリオ主体の作品ならば、見せ場毎にイベントムービーを挟むのが定番だろうが、本作はひたすらプレイアブルな状態を維持し、シームレスなプレイ進行にこだわっている。それは結果としてプレイにスピード感を与え、エンディングまで中だるみすることなく緊張感のあるプレイ体験を可能としている。これは本作の大きな個性と言えるだろう。そして何よりイベントを挟まないそのシームレスな感覚が、プレイヤーの没入感を高め、ゲームプレイとシナリオのシンクロを高める効果を発揮しているのだと言える。そのクオリティの高さは近年の作品すら容易に比肩しうるものではない。本作が名作と呼ばれる所以はそのエポック・メイキングな位置づけのみならず、作品そのものの質にもあるということがプレイして良く理解できた。

未熟なシステムと完成度の高いデザイン

f:id:Martin-A:20190615133841j:plain

純粋なシューターとして本作を見ると、やはりそのシステムの未成熟さが気になるところではある。全体マップやミニマップも存在しない。各チャプターがミッション形式に細かく区切られてもおらず、当然ミッション目的へのナビゲーションも表示されない。物理エンジンも発展途上の段階であり、射撃の重力補正も効かないため、ハンドガンが超性能のスナイパーライフル状態(アサルトライフルには申し訳程度のリコイルは存在する)だ。エイムは一部の武器でのみ可能。リーンは存在しない。遮蔽物に隠れてからのカバーアクションも出来ない。これらのシステムは本作以降の作品において、プレイの快適さやリアルさを追求する過程で実装され、これまで存続してきたものであることを考えれば、本作におけるシステムの未成熟さは当然のことだ。それは欠点には当たらないが、20年の時を経て本作をプレイするにあたり、そのハードルを上げるものであることは否定できない。

f:id:Martin-A:20190615135638j:plain

しかし、である。自分が驚いたのは、このように貧弱ともいえるシステムにも関わらず、本作をプレイしてほとんどストレスを感じなかったことだ。本作のマップは20年前の作品としてはかなり広大で、いくつかのエリアに分かれたそのマップをシナリオに従って移動していく形式だ。各エリアは敵を倒しながら進むだけの単純なものではなく、次のエリアに進むための目的があり、そのためのギミックが多数用意されている。(例えば道をふさぐエイリアンを排除するために燃料と酸素のパイプを開き、電源を回復して爆破する、など)

f:id:Martin-A:20190615140506j:plain

無論マップもミッション設定も無いので、迷いなく目的を果たすことは稀だ。しかしマップを進みつつ、敵を排除し、生き残りの科学者や警備員と接触する流れで自然とそのエリアにおける目的が達成できてしまう。マップの設計と、敵やNPCの配置、レバーやボタンなどのギミックの設定など、ゲームプレイに関係するデザインがとにかく秀逸なのだ。さらに言えば、自分は当初本作の日本語化Modが見つけられなかったので英語字幕Modを導入してプレイした。畢竟日本語でのプレイに比べて情報の理解度は相当に劣った状態であるにもかかわらず、戦闘や、パズルにも似たギミックをこなしつつ、ストレスなくプレイが可能なこのバランスは、現代の基準で見ても相当に高いレベルにあると感じた。

f:id:Martin-A:20190615141243j:plain

マップも閉鎖的な環境に在る研究所に始まり、地下通路や水路を巡り、研究所を出て開けた環境に移り、渓谷や果ては地球外の惑星などバラエティに富んでいる。使用する武器もFPSでおなじみのハンドガンやライフルに加え、本作ならではの個性的な武器も揃っており、戦闘も飽きさせない。正直20年前の作品をこれほど面白くプレイすることが出来るとは思っていなかった。20年という時間の制約を超え得るクオリティの高さというものが在るのだな、とつくづく感心させられた。

全てはここから始まった

f:id:Martin-A:20190615142254j:plain

数多のゲームブログで”現代FPSの原点”と評される本作。そのことに興味を持ちプレイした本作だが、なるほどその内容は評価を裏付けるものであった。そして同時に現代にも通用しうるその質の高さに驚いた。当然20年前の作品であるためグラフィックや操作性、システムなど様々な点で現代の作品には及ばない点もある。自分が本作をこれほど楽しむことが出来たのも、世代的に小学生でファミコン、高校生でスーファミ、大学生でプレステ、サターンと、CS機の発展に沿ったゲームライフを送ってきた世代であるため、本作の”古臭さ”が気にならないことも一つの理由だろう。さすがに物心ついたころからPS3PS4という世代にはちょっと厳しいかもしれない。

しかし本作のクオリティの高さや歴史的な位置づけといった評価は今後とも変わることは無いだろう。本稿では触れなかったが、現代におけるゲームの潮流であるModやオンラインプレイも源流をたどると本作に行き当たる。本作のModから派生した『Counter Strike』が現在でもなお『CS:GO』としてオンラインゲーム人気作品の一角を占めていることからもその点は明らかだ。興味があるなら是非プレイすることをお勧めする。その品質の高さに唸るだろう。Steamのセール時なら¥200程度で購入可能だ。

f:id:Martin-A:20190615144055j:plain

ちなみにTwitterで本作の日本語化Modが見つけられない旨呟いた所、返信で配信場所を教えていただいた。現在日本語字幕で改めてプレイしている。SNSはこういう時本当に便利だ。興味のある方はブログにタイムラインを貼っているのでそちらをご参照。(提供者の方、ありがとうございました)