『Submerged』 ”安心安全”な廃墟探索

f:id:Martin-A:20190722075314j:plain

『Submerged』をクリア。プレイ時間は5時間。実績は70%達成。実績にこだわらなければ3時間程度でクリアできるボリュームだ。

本作のジャンルは”廃墟探索ゲーム”と言うべきものだ。主人公のミクは怪我を負った弟と共に、小舟で水中に没した都市に辿り着く。そこでミクは弟の怪我を治すために、様々な物資を廃墟を探索して調達する、というコンセプトとなっている。

f:id:Martin-A:20190722075831j:plain

このゲームの特徴は、ゲームプレイが非常に”安心、安全”であることだ。舞台となる廃墟は海中に没した摩天楼。その廃墟を主人公は小舟を駆り、壁面をよじ登り、不安定な足場を辿りながら探索を進めていく。その足取りは本来危険を伴うものだ。

しかしゲームプレイにおいて、本作に”危険”な要素は存在しない。海に攻撃的な生物は存在せず、小舟でも安心して水面を疾駆することが出来る。切り立つ壁面を登っても、高所の一本橋を渡っても、操作ミスにより転落することもない。この世界に”ゲームオーバー”は存在しないのである。

f:id:Martin-A:20190722080510j:plain

f:id:Martin-A:20190722080540j:plain

このゲームオーバーが存在しない、”安心安全な廃墟探索”は、本作における一つの大きな特徴と言えるだろう。所謂ウォーキングシミュレーターならともかく、本作はシナリオに基づいて進行するADVでもある。”安心安全”という特徴は、一方でプレイに緊張感を失わせ、ゲーム性を喪失する懸念もある。このあたりは賛否が別れそうなポイントではあるが、本作におけるこの方向性は正解であると感じた。一つにはそれが本作のコンセプトである”探索”を存分に堪能するために機能しているからである。舞台となる水没都市をプレイヤーは船で周遊し、朽ちた建物を探索する。本来そこには様々な危険があるはずで、小舟の何倍もの大きさのクジラに船を壊されることも、壁面から手を滑らせて落下することもあるだろう。しかし、システム上その心配がないことで、より本作の世界を味わうことに専念することが出来る。ディズニー調とも言えるパステルな世界観で描かれた本作においては、スリルよりも快適さを優先することが正解だろう。

f:id:Martin-A:20190722083645j:plain

もう一つ見逃せない点だが、本作はそのビジュアルや操作面での安心感に比較して、そのシナリオや背景となる世界観は結構暗いのだ。そもそも主人公姉弟がなぜこんな廃墟に辿り着いたのか?なぜ弟は大きなケガを負っているのか?なぜこの都市は水没しているのか?プレイを始めた時点で本作には幾つもの不穏な要素が秘められている。その疑問はプレイを進めるうちに、曖昧な形ながらも明かされていくのだが、進行が進むにつれてさらに不安を煽る演出が挿入され、プレイヤーの不安感を増大させていく。

f:id:Martin-A:20190722083816j:plain

f:id:Martin-A:20190722083831j:plain

本作ではシナリオや世界観に関する不安感を、システムにおける安心感がうまく緩和している。実際のところ小説や映画、マンガなど他のメディアであれば悲劇や、もやもや感の残る結末は嫌いではない。寧ろその余韻を好むと言ってもいい。しかしゲームというメディアの場合、そのインタラクティブ性が没入感を高めることもあり、シナリオの内容によっては結構しんどく感じることもある。弟を救うために奮闘する健気なお姉ちゃんの物語である本作だが、そのシナリオに加えてプレイそのものにも緊張感が加えられると自分のようなヌルいゲーマーにはかなり負担が強い。シナリオに対するフォーカスを強める意味でも、”安心安全”なプレイはうまく機能していると感じられた。

f:id:Martin-A:20190722084757j:plain

f:id:Martin-A:20190722084814j:plain

本作はボリュームこそ小さいが、ゲームプレイとシナリオにおけるバランスのとり方が非常に独特な作品だ。廃墟ゲーとしても品質が高く、それを演出するBGMもまた素晴らしい。大作疲れを感じた際に、箸休め的にプレイするにはもってこいの作品だ。定価だとそのボリュームに比して高く感じるが、セールなどの時期を狙って買うならば損のない作品だ。