『Dishonored』 敷居は低く、奥行きは深く。

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Dishonored』をクリア。難易度はノーマル。所要時間は22時間。

2012年に発売された本作は、”ステルスゲーム”のジャンルでは代表的な作品の一つとなっている。形式としてはFPSではあるが、基本的にFPSはトリガー・ハッピーであることが信条である自分とはかなりギャップのあるゲームとは思いつつ、評判の高さを見て購入した作品だ。

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物語の舞台は産業革命後のロンドンがモデルと思われる都市ダウンウォール。女王暗殺の濡れ衣を着せられた元王室護衛官コルヴォ・アッターノは、攫われた王女の救出と、自身を陥れた者たちへの復讐に立ち上がる。王政支持派の人々、更には謎の存在である”アウトサイダー”からの支援を受け、コルヴォは不当な支配を目論む者たちへその復讐の刃を向ける。

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本作でまず特筆すべきことはそのカジュアルさだ。「ステルスゲーム」である本作のミッションは、脱出や潜入と言った内容が主であり、敵と正面からやりあうのではなく、如何に気づかれずにミッションを遂行するかが問われることになる。プレイヤーは銃やナイフに加え、”ルーン”と呼ばれる超能力を駆使してミッションに挑むことになる。この”ルーン”の存在が本作をカジュアルに仕立て、プレイヤーへの敷居を下げることに貢献している。

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壁越しに敵の姿を捉える、短い距離を瞬間移動する、時間の流れを止める、などルーンの能力は正にステルスプレイの支援に特化したものが多い。無論本作はルーンを使用せずともクリアすることは可能であるが、それには敵の配置や動作を繰り返しプレイして把握するなどの手間が必要となる。その手間は「ステルスゲーム」の醍醐味のひとつではあるが、同時にこのジャンルを敬遠する理由ともなりうる。本作における”ルーン”はその手間を大幅に削減し、テンポよく攻略を進めることが出来るという意味で、「ステルスゲーム」という敷居が高くなりがちなジャンルである本作を、手に取りやすいカジュアルなレベルに落とし込むことに成功している。

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その一方で、本作は必ずしも”初心者向けステルスゲーム”に収まらないだけの奥深さを備えている。”一本道FPS”の体裁こそは取っているものの、多様なプレイスタイルを許容するその柔軟さは驚異的だ。”邸宅に侵入する”こと一つをとっても、周囲の警備を全て排除して玄関から乗り込んでも良い、屋根伝いに密やかに侵入しても良い、ルーンで鼠に乗り移り、下水道から侵入しても良い、馬鹿正直に正面からカチ込みをかけても良い。それでいて何をすれば良いか迷うことはなく、結果として最初のプレイでは自分にとって最も楽なスタイルを自然と選択することになるだろう。

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そしてプレイ後にYoutubeで他人の攻略動画を見て、このような攻略もあったのか、と気づくことになる。特に終盤のステージになるほどに多様な攻略が可能となっていることには感心する。このプレイ許容度の高いデザインは、決して放任主義の賜物ではない。プレイヤーの自由に任せているようで、様々なルートを開拓することが可能なようにプレイヤーを誘導するそのデザインは傑作と言って良いだろう。シナリオは一本道でも、プレイでは多様な選択が可能であり、その奥深さは歴戦のプレイヤーも十分に満足するレベルに達している。

正に初心者を十分に取り込む敷居の低さと、ベテランを唸らせる奥深さを兼ね備えた作品だ。そもそも相反することの多いこの2つの要素をこれほど高いレベルで兼ね備えている作品は稀有だ。好き嫌いとは別の次元でその品質の高さを評価することが出来る。

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ステルスゲーム」が苦手だ、敬遠している、というプレイヤーであれば一度本作をプレイすることをお勧めする。そのジャンルで”最初の1作”とするにふさわしい作品だと思う。

『MGS』などの有名シリーズをプレイしていながら、本作を未プレイであるプレイヤーであればやはり本作をお勧めする。そのジャンルを”代表する1作”と呼ぶにふさわしい作品だからだ。

初心者からベテランまで幅広く訴求するそのデザインに驚嘆を禁じ得ない。

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