『Ghost Recon Wildlands』 オープンワールド✖TPSの相性問題

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Ghost Recon Wildlands』を難易度ノーマルでクリア。所要時間は84時間。

作品の舞台はボリビア。プレイヤーは米国の特殊工作部隊”ゴースト”のリーダーとして、同国を支配する麻薬カルテル”サンタ・ブランカ”の壊滅を目的とした「キング・スレイヤー作戦」に着手する。

シューターとして高い品質を備えた作品であり、十分に楽しめる内容だった。しかし同時にクリアまでの時間がひたすら長く、ストレスすら感じる作品でもあった。それは本作がTPSであると同時にオープンワールドであることに起因している。

 

オープンワールドボリビア”は素晴らしい出来

まず本作の”オープンワールド”であるボリビアについては素晴らしい仕上がりと言って良い。一般的な定義は脇に置くとして、自分にとってオープンワールドの良し悪しは「探索」の深さで決まる。あの山を越えた先に何があるのか?遠くに見えるモニュメントは一体何か?あてもなく徘徊した先で偶然に遭遇する街や人々。正に一つの世界を気の向くままに踏破する楽しみだ。従って、オープンワールドを謳いながら、目に見える場所に行くことが出来ない、ましてやそれが単なる一枚絵にすぎないような作品については評価が辛くなる。

その点本作については満点だ。驚くことに、本作でプレイヤーが目にする景色に単なる背景はほぼ存在しない。画面に映る場所は全て踏破することが出来る。まずその点だけでも高く評価できる。

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そのデザインについても、ボリビアの高地地帯をベースに巨大なダム、広大な塩湖(モデルはウユニ塩湖)、壮大な霊廟など探究心をくすぐる魅力的なスポットが満載だ。プレイヤーはこの世界を様々なビークルで縦横無尽に駆け巡ることになる。バイクやSUVで道なき道を往くもよし、ヘリやセスナで自由に飛び回るも良し。本作はエリアに存在するほとんどのビークルに乗ることが出来ることも驚きだが、それがこの世界の探索を更に魅力的にしている。オープンワールドの設計は満点と言っても過言ではない出来だ。

オープンワールド・ゲーム”としての出来は今一つ

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一方でゲームとしての本作は、そのオープンワールドの魅力を十分に活かしているとは言い難い。本作ではボリビア国内を移動してストーリーミッションをこなしてシナリオを進め、並行して各地に配置されたスキルや武器、アタッチメントを回収してキャラの育成を行う流れとなっている。

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問題なのはこのスキルや武器の収集、つまりキャラの育成が非常に単調な作業であると言うことだ。スキルや武器を得るためには、拠点の襲撃や物資の強奪などをこなす必要があるが、基本的のそのパターンは限られており、何よりそれらのアクションはシナリオの進行に直接の関係が無い。育成が進むほどに同じ作業の繰り返しにどうしようもなく飽きが出てくるのだ。それでも武器やスキルはプレイの幅を広げ、円滑なプレイには不可欠なものも少なくない。結果としてストーリーミッションを快適に進めるため、その倍以上の時間を単調なキャラ育成に費やすことになる。この点はいただけない。

この単調作業に起因する倦怠感の原因の一つは「サブクエスト」が存在しないことにある。例えば『Fallout』や『Boderlands』などは、メインシナリオ以外に豊富なサブクエストが存在している。プレイヤーは世界を探索する過程でサブクエストの形で様々な邂逅を体験する。それが探索のモチベーションとなり、結果としてメインシナリオを進めるためのキャラ育成にもつながっている。(特に『Fallout New Vegas』はこのあたりの仕掛けが抜群に出来が良い)

ところが本作の場合、キャラの育成とシナリオの関連が薄く、MAPに配置されたスキルや武器をひたすら追っていくことを繰り返す。折角魅力的な世界が用意されているというのに、これでは探索の楽しみが削がれると言わざるを得ないだろう。

オープンワールド”である必要はあったのか?

このようにサブクエストが存在しない本作は、所謂”一本道FPS”(『Wolfenstein』や『METRO』など)と構造は同じと言って良い。違いはChapterの選択が可能というだけだ。寧ろオープンワールド化することでメインミッション以外のプレイが単調となり、密度が薄まった印象を与える。個人的には一本道の構造にしてプレイ時間を大幅に(大体20時間以内)に抑える方が好みに合う。それでもオープンワールドにこだわるのであれば、キャラ育成の部分をスリム化するか、あるいは肥大化を恐れずにサブクエストを実装すべきだったのではないかと考える。特にスキルの獲得に、スキルポイントとは別に物資(それも4種類。スキル毎に要求が異なる)が必要なのはいかがなものか?これをなくすだけで相当にスリム化できたと思うのだが。

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本作と同じ問題は、以前プレイした同じくUBI SOFTの『Farcry3』も抱えていた。自分はまだ未プレイだが、実況動画で見た『Farcry5』や最新作『Ghost Recon Breakpoint』はこの点に改善がみられるようだ。同じく未プレイではあるが、一本道FPSの代表作である『METRO』は最新作『METRO EXODUS』でオープンワールド化されたらしいが、こちらでは同じ問題を抱えていないのだろうか?本作をプレイしたことで気になるところだ。いずれセールの際に購入して確かめてみたいものだ。

本作の真価はCOOPにあり?

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以上はあくまでもソロプレイでの感想となるのだが、実のところ本作の真価はCOOPモードでこそ発揮される気がしてならない。本作でプレイするミッションはあくまで”ゴースト”チームがその主体であり、主人公₌プレイヤーの単独任務ではない。ソロプレイでは3人のチームメンバーを指揮してミッションに挑むことになるが、このAIが中々に優秀で、例えば狙撃を指示すればまず100%狙いを外さない。一方で位置取りや立ち回り細かく指示できるわけでは無いので、強襲やステルスでのプレイでの存在は薄い。これをフレンドとチャットで連携を取りながらプレイすれば、ソロでのプレイとは比べ物にならない程戦略の幅が広がる。これまでに述べたような単調なミッションがその様相を大きく変えることになる。本作は構造的に問題を抱えてはいるが、シューターとしての品質は非常に高い。スキルや武器の種類も豊富であり、様々なスタイルでのプレイを楽しめることは間違いない。そう考えると武器やスキルが増えることで戦術の幅が広がるCOOPでのプレイであれば、そうそう飽きや倦怠を感じることはないのかもしれない

読み応えのある重厚なシナリオ。それだけに惜しい作品

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本作はトム・クランシーの名を冠するだけのことはあり、シナリオの出来が良い。他のシューター系の作品に比べても頭一つ抜けていると思う。面白いことに本作ではシナリオにおける主人公はプレイヤーではない。主人公としてシナリオを動かすのは「キングスレイヤー作戦」の責任者としてプレイヤー達を指揮するCIA捜査官カレン=ボウマン、そしてプレイヤーが敵対するカルテルのボス、エル=スエーニョの2人と言っていいだろう。

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この2人、正反対の立場にありながらも本質が良く似ている。自らが善でないことを知りつつも、その正義と信念に確信を持ち行動するタイプだ。プレイヤーの活躍により、一方は成功をおさめつつあり、他方は破滅の際に立たされる。それまで直接接することの無かったその2人が最終ミッションで初めて邂逅することになる。その後の展開も含めてこの構成は非常にスリリングだ。

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本作では2パターンのエンディングが用意されている。Bad/Goodと安易に分けられない内容となっているのも興味深い。ネタバレは避けるが個人的に2つのエンディングの違いは「ボウマンとゴースト(₌プレイヤー)との信頼関係の深さ」によるものだと考えている。クリア後に解除されるエンディングは、ボウマンがゴーストを深く信頼することで最初のパターンが避けられたことを示唆していると思うのだ。

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これらはあくまで自分の推測でしかないのだが、そう考えるとエンディングの分岐はもう少し凝ってほしかったと思う。ボウマンの指示でミッションをこなすプレイヤーの選択次第でエンディングが分岐すれば本作のシナリオの評価は更に高まったと思う。それはゲームと言うインタラクティブなメディアが活きる演出だ。折角の秀逸なエンディングがおまけのような扱いになっているのは残念なことだ。

プレイ中のボウマンはいかにもトム・クランシー作品に登場する典型的なCIA捜査官(ジャック=ライアンとは対極的な意味で)タイプなのだが、エンディングでその評価が大きく変わる。2パターン目のエンディングにおける主人公っぷりが最高で、エンディングのモノローグが最高にカッコいいのだ。このエンディング、カッコよさでは自分がプレイしたゲームの中でも5本の指に入ると言って良い。正直このシナリオだけでも元は取ったと思えるくらいだ。

オープンワールドとしての構造的な問題はあるが、魅力的な舞台と質の高いシューター、そして重厚なシナリオを十分に堪能できる。その点は保証出来る作品だ。

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