『Half-Life2』 名作の続編は確信犯的な傑作

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Half-Life2』をクリア。所要時間は18時間。前作『Half-Life』を昨年プレイして、20年前の作品ながらその完成度の高さに唸り、続編である本作もプレイすることにした。

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ゲームであれ映画であれ、いかなる創作においても名作の続編と言うものは、基本的に受け手のハードルが高い分評価が辛くなる。FPSにおけるエポックメイキングである『Half-Life』の続編である本作も当然その類に漏れないのだが、これもまた傑作と呼ぶに相応しい作品だった。

証明された完成度の高さ

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本作のゲームシステムは基本的に前作と変わり映えしない。シナリオ・ドリヴンな進行、ゲームプレイとイベントのシームレスな繋がり、マップやクエスト情報も存在しないシンプルな構成。いずれも『Half-Life』が実現した、没入感を高める映画的アプローチであり、前作から6年の歳月を経ても驚くほどの変化の無さだ。

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これは制作陣の保守的傾向の表れだろうか?そうではないと思う。寧ろ『Half-Life』が先を行き過ぎていたのだ。あたかもプレイヤーが物語の中に入り込むかのような錯覚を与えるそのシステムの完成度が、6年の歳月を経て尚優れたものであることを本作は証明している。本作が発売された2004年当時であれば、マップやクエスト、装備やアイテムなど、豊富な”ゲーム的情報(Escキーやセレクトボタンで表示されるアレ)”をゲームに組み込み、ユーザビリティを上げることは問題なく出来たはずだ。しかし本作は敢えてそれを避け、前作同様のユーザー・フレンドリーとは言い難いシステムを踏襲している。プレイヤーは何をするのか、何処に行くのかを目の前の世界の中だけで判断しなければならない。それでいて”迷うことはあっても詰まることはない”絶妙なレベルデザインは健在だ。それが逆に他の作品と比較しても群を抜いた没入度を与えている。そしてそれは2019年現在においてもその魅力を失っていない。仮にValveが『Half-Life』の続編を作る場合でも、このゲームシステムやプレイスタイルは踏襲されるだろう。根拠はないがそう確信している。真に優れたシステムは歳月の試練に耐えうる。そのことを本作は示していると思う。

格段に充実したコンテンツ

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一方で名作の続編に相応しく、充実した内容であることは言を待たない。前作と比較して格段に向上したグラフィック、物理エンジンをフルに活用したモーションなど、6年の歳月に相応しい要素技術の向上が反映されている。

ゲーム内容についても、前作には無かったボートやバギーなどのビークルが登場するなど新要素もふんだんに盛り込まれている。中でも照準を合わせた対象を重量制御するグラビティ・ガンの登場は、戦闘のみならず、アドベンチャー・ゲーム的なパズル要素を更に充実させるものとなっており、本作の重要な個性となっている。

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各チャプターに挿入される戦闘イベントは更にバラエティ豊かになり、単純なゲーム性についても著しく向上している。詰め込み過ぎと批判的に見る向きもあるようだが、ストーリー性を増したシナリオとゲームプレイが継ぎ目なくつながる従来のシステムのおかげで寧ろコンテンツとしての濃度が増したと感じられる。まずは待たせた歳月を裏切らない内容であると言って良いだろう。

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名作への確信に満ちた傑作

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思うに『Half-Life2』は、前作である『Half-Life』のように新たなジャンルやシステム、プレイスタイルを開拓した名作ではない。『Half-Life』で打ち出した革新的でありながら同時に完成度の高い作品性に対する確信に裏付けられた、歳月に相応しい品質とコンテンツが詰まった傑作と評すべきだろう。ゲームシステムやプレイスタイルを”器”とするならば、既にこれ以上ない名品がそこにある。ならばそこにより優れた”酒”を注ごう。そうして生まれた作品が本作であると言えるだろう。『Half-Life』を本当はこのクオリティでやりたかったんだろう。そう思わずにはいられないだけの傑作であることは間違いない。

そして先日十数年ぶりの新作として『Half-Life:Alyx』が発表された。

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新作はVRでの制作になるようだが、なるほど本作のシームレスかつ”ゲーム的情報”を極力排除したスタイルは正にVRにうってつけだ。『Half-Life』が新たな革新性を打ち出すのに、VRは恰好の素材だろう。きっとこれまでにない程の没入感を与える作品となることは想像に難くない。もしかするとValveはVR技術が『Half-Life』に相応しい水準に達するのを待っていたのだろうか?これだけ多くのファンを、これだけの期間待たせたのだ。その名にふさわしい作品を期待したいものだ。f:id:Martin-A:20191130224453j:plain