『ARMORED CORE V』 ようこそ、鉄と硝煙の戦場へ

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ARMORED CORE V』のオフラインモードをクリア。9ストーリーミッション、83オーダーミッションのクリアで所要時間は約25時間。

”ハイスピード・ロボットアクション”の代名詞と言える『ARMORED CORE』の第5世代にしてシリーズ14作目。発売は8年前となる2012年。新作のリリースが絶えて久しい本シリーズでは今のところ”最新世代”にあたるのが、本作を含む”V系”2作である。

本作の評価を述べる前提として、前世代に当たる”4系”について触れない訳にはいかないだろう。PS3,XBOX360にプラットフォームを移した最初の世代である”4系”の2作(『AC4』『ACFA』)は、世界観や仕様を一変し、当時の最新スペックをフルに活用した高速、高機動のアクション、ハードな世界観と重厚なシナリオで現在に至るまで高い評価を受けている。

 

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 現在でもACシリーズの最高峰として”4系”の2作を挙げるファンは非常に多い。その傑作の後継作品としてリリースされたのが本作である。”4系”に比べると賛否の別れる”V系”について、実際にプレイした上での感想を述べていきたい。

”爽快感”から”重厚感”への転換

まずプレイして感じた、いや驚いたのはプレイングフィールの変わり様だ。地上を、空を、超高速で駆け巡った”4系”の操作感とはまるで異なる乗り味。一言で言えば「重い」。前作と比較すればかなり鈍重に感じるだろう。最も違いを感じたのがACが飛べなくなったことだ。前作ではブーストすることで容易に上昇し、アセン次第では常時飛行が可能だったACだが、今作のACは飛ぶことが出来ない。代わりにブーストしながら壁を蹴ることで上昇し、高さを稼いで更にブーストすることで滑空する仕様になっている。前作では軽量機体で飛行して距離と高度を取り、遠距離攻撃で敵を撃破することが主だった身としてはかなり戸惑った変更要素だった。

飛行出来ないと言う点以外にも、全体的に4系と比較して動作の俊敏さや速度はかなり落ちていると言えるだろう。しかしこれを”劣化”と捉えるのは早計だ。実際にプレイすれば分かる。本作が目指しているのは”4系”の延長ではなく、全く別のコンセプトだと言うことに。”4系”のコンセプトが「爽快感」であるならば本作のコンセプトは「重厚感」だ。巷では”4系”はガンダムに代表されるスーパーロボットに、”V系”はボトムズ等のリアルロボットに称されるようだが、おおむね妥当な評価だと思う。似たような表現であれば、”4系”はF1、あるいはフェラーリのようなスーパーカー、”V系”は戦車や戦闘機のようなミリタリー・ビークルと言った所だろうか。

これはコンセプトの違いであって優劣を議論すべきものではないと考える。一方で好みとしてはかなり別れる違いではあるだろう。”4系”の高速・高機動なバトルの熱心なファンには受け入れがたいものであったかもしれない。個人的には4系の爽快感も好きだが今作の重厚さも捨てがたく感じる。より重力に縛られた環境、鉄の軋みまで感じられる駆動音、ロボットではなく重機や兵器を操作しているようなその感覚は、4系の2作と比べてもよりリアルな操縦感覚を得ることが出来る。また、操縦におけるコンセプトの変更と合わせるように今作ではマップデザインも大きく変わっている。オープンで”空が高い”デザインが多かった4系と比較すると、今作のマップは都市部、山岳基地、コンビナートなど地上部分の起伏が豊かだ。ブーストでジャンプを繰り返しながら(そして時々敵を蹴り散らかしながら)マップを駆けまわるその機動性は、速度こそ4系に及ばずとも敏捷性では劣らぬ魅力がある。

多少乱暴な整理をすると、”超高速・高機動”が売りの”4系”はスポーツ、それもオリンピックレベルの超絶技巧に模される仕様である一方、今作のそれはより泥臭く、良くも悪くも”兵器”としてのACと、その戦いの舞台である戦場に相応しいものだと言える。次はその点について語っていきたい。

終末的で魅力的な世界観、ただしシナリオは薄味な内容

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今作では世代交代に合わせてその世界観も一新されている。”4系”の2作では、国家が崩壊して企業の連合体による統治に移行した世界が舞台であったが、今作では既に体系的な統治構造は崩壊し、人類は僅かな生存可能区域に寄り集まり、圧制の下に社会を維持している世界となっている。いわばディストピアからポスト・アポカリプスへとステージが進行したと言える。

”4系”で各企業が争うように個性豊かな武器やパーツを開発していたACも、既にその開発技術は失われている。主人公の機体も含めて全てのACは過去に作られたそれを”発掘”して使用していると言う有様だ。今作の戦いの舞台となるのは人類の生存域の一つである”City”、その地を圧制で支配する「代表」と、反旗を翻す「レジスタンス」との闘いを軸に物語は展開する。

”4系”における戦争は企業間競争であり、同時に企業の示威行動と言う名のマーケティングの舞台ですらあった。それに対して本作における戦争はただひたすらに生存競争だ。前作におけるAF(アームズフォート)戦のような華やかさは失われ、戦場は破壊と硝煙に満たされ、閃光と爆音が交錯する中、自らが操る機体の駆動音が耳を擽る、より重苦しくリアルな舞台設計となっている。

この世界観は今作の重厚感を強調したプレイ・コンセプトによくマッチしている。シリーズの代名詞であるACですらロスト・テクノロジーと化した終末的な世界には、今作の重厚感こそが相応しい。

惜しむらくはこれだけ魅力的な世界観と、手応えのあるプレイコンセプトを融合させながら、ストーリーミッション、オーダーミッション共にシナリオの内容が薄い事だ。特に前作『ACFA』のハード且つ重厚なシナリオに比較すると、その密度の薄さは否めない。世界観もキャラクターも魅力的なのだが、ストーリーミッションはボリューム不足で尻切れトンボ、オーダーミッションはそもそもシナリオの作りこみが足りない。

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敢えて今作のシナリオ面における白眉を挙げるならば、やはり”主任”の圧倒的な存在感に尽きるだろう。先日亡くなられた藤原啓治氏の、正に怪演と言うべきパフォーマンスが光るのだが、それが逆にシナリオの薄さを却って際立たせてしまっているのが残念な所ではある。

メインはオンラインマルチプレイ、添え物感のあるシングルプレイ

しかしそれもやむを得ない部分ではある。本来本作のメインとなるべきコンテンツは、本稿の対象となっているシングルプレイ部分ではなく、チーム戦を主としたオンラインのマルチプレイであるからだ。本作のプレイコンセプトや世界観をはじめとした要素の多くは、基本的にオンラインマルチプレイを前提にデザインされたものだ。これは実際にプレイしても感じる。例えば戦闘におけるスキャンモードや索敵リコンの存在、攻撃と装甲の属性(相性次第では驚くほどの紙装甲になる)、極端な空中戦を排した操作性などは、オンラインのチーム戦を想定してデザインされた仕様だ。言ってしまえばマルチプレイを最も面白く遊ぶための仕様を流用してシングルプレイ部分を作ったと言っても過言ではない。

これは本作のプロデューサーである鍋島俊文氏が、当時のインタビューでも「シングルプレイはやりつくした感がある」「オンラインでやるしかないだろう」と語っているあたりそれほど的を外してはいないと思う。

www.4gamer.net

オンラインがメインコンテンツである以上、シングルプレイが割を食うのは仕方ない事だろう。シングルプレイがメインコンテンツであり、しかも名作の名に相応しい”4系”の2作と比較すると、本作のシングルプレイだけを比較するのは適切ではない。

ただ残念なことに本作のオンラインサービスは既に終了している。そのためシングルプレイ部分しか現時点では評価することが出来ないのだ。実のところ、ボリュームとしては本作のシングルプレイも4系の2作に劣らぬものがあるのだが、個々のミッションの作りこみやシナリオの完成度についてはやはり明確に4系に軍配が上がる。

世界観やプレイコンセプトは”4系”とは別物ながら、決して引けを取らないものを持っているだけになおさら残念。”V系”のコンセプトでシングルプレイ志向の強い作品をプレイできたら、と思わずにはいられない。全くACの新作を望む声が絶えないのも当然と言うべきだろう。

メインとなるオンラインサービスが終了した現在、今作をプレイする意味があるのだろうか?

勿論ある。そして面白い。自分は昨年初めて『AC4』をプレイしてACシリーズに手を出し、『ACFA』、そして今作と3作目のプレイである。シングルプレイとしての完成度は前2作に及ばぬまでも、十分なボリュームとプレイ面での完成度がある。何より8年近く前の作品なので、中古で安く手に入る。ACシリーズの経験者で、未プレイならば是非プレイしておくべき作品であることは間違いない。