『ARMORED CORE VERDICT DAY』 シングルプレイの手ごたえが増した”V系”2作目

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ARMORED CORE VERDICT DAY』のストーリーミッションをクリア。所要時間は約20時間。オンラインのマルチプレイがメインである点は前作『ACV』と大きく変わらないが、今回プレイしたシングルプレイについても中々楽しめる作品だった。前作との比較を中心に本作の評価を纏めていきたい。

 

手強さの増したストーリーミッション。鍵は情報とアセンブルの組み合わせ

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まずはゲームプレイに関する点だが、前作と比較してストーリーミッションの難易度は高めとなっている。本作は前作から機体データの引継ぎが可能であり、前作をプレイ済であれば武器や機体についても高性能なパーツを最初から使用することが出来る。そのため序盤については楽勝だと考えていたのだが、実際には相当に苦労することになった。碌なパーツが無かった前作の序盤の方が遥かに楽にクリアできていたと思う。正直データを引き継がず、素の状態でプレイしたらどんな有様だったのか想像もしたくない。そして中盤から終盤にかけてもその難しさに減速の兆しは見えない。前作では結構な比率で最高評価のSランクでクリア出来ていたが、今作は終盤のミッションはそのほとんどが最低ランクのDランククリアだった。正直何度か心が折れそうになった。ゲームプレイの手応えについては確かに前作を上回っている。

これは今作のシングルプレイにおける各ミッションの設計が、前作のそれよりも質の面で向上している証左と言えるだろう。正直前作のミッションについてはブリーフィング前の僅かな情報や、1,2回敗退して敵戦力を把握すればかなり雑なアセンブルでもクリアすることが出来た。基本的に”V”系の仕様では攻撃の属性が3つ(実弾系の”KE”、爆発系の”CE”、エネルギー系の”TE”)存在し、装甲もその属性に合わせたタイプが用意されている。前作ではその属性だけを考えて、敵主力の属性に合わせた装甲を固め、敵の最も弱い属性の武装を用意する程度のアセンで問題なくクリアできた。

しかし本作の場合、多くのミッションでは敵の構成は複数の攻撃属性を組み合わせたものとなっている。単純にどれか一つの属性を固めただけでは弱点を突かれてゴリゴリと削られていく。AC戦になるとさらに厄介だ。単純な武器と装甲の属性だけではなく、全く動作の異なる(遠距離型と高機動近接型のコンビ等)組み合わせや、相手の硬直を誘う武装と単発火力の高い武装の組み合わせなどでこちらをハメてくるなど、いずれも前作での雑なアセンでは非常に苦労する場面が多くなった。正直少なくないミッションで「こんなのどうやってクリアすればいいんだ!」とフロム作品特有のあのフィーリングを味わうことになるとはプレイ前は思ってもいなかった。

そのため前回はあまり使用しなかったスキャンモードを多用し、相手の武装や装甲を確認し、有効と思われるアセンブルを試行し、プレイを重ねていくことでミッションをクリアするケースが増えた。相手の攻撃との相性と、自分のプレイスタイルとがうまくかみ合わない場合はどちらを優先するか悩ましい場面も多かった。特定のアセンやビジュアル重視のプレイヤーならもっと苦労しただろう。ゲームの仕様とプレイヤーの嗜好と志向を弄ぶような設計は流石フロム・ソフトウェアと言わざるを得ない。

基本的に難易度の高い本作ではあるが、感心するのはプレイスキルに過度に偏重しないその姿勢だ。確かにある程度のプレイスキルを要求する作品ではあるのだが、ミッション毎に最適のアセンを組むと、散々苦労していたミッションが驚くほどあっさりとクリアできることもある。テクニックの不足をアセンで補うことが十分可能なこの仕様は結果としてプレイスタイルの幅を広げる事に繋がっている。自分のようにテクニックが十分ではないプレイヤーでも、色々なアセンを試した結果、最適のアセンを発見して圧勝したり、ギリギリの勝利を掴んだりと実にやり応えがあった。これだけ質の高い設計でありながら、一方でヒートパイル(みんな大好きパイルバンカー、射程は極端に短いが、中型機までならほぼ一撃、タンクでも大体2撃で落とせる浪漫武器)での雑な戦いも許容している遊び心も好ましい(実際パイルにはラスボス含めて相当に世話になった)。

シングルプレイの薄さが指摘された前作を、今作では的確に修正している。実に満足なプレイだった。

 

シリーズのファンに向けた心憎い演出が光るラストバトル

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本作のストーリーミッションは、前作から100年以上先の未来が舞台となっている。シナリオについては詳述を避けるが、評価そのものについては前作と大きく変わらない。やはり ”4系”の重厚かつ充実したシナリオに比べると、ボリュームも書き込みも物足りないと言わざるを得ないだろう。加えて本作は敵方のインパクトが薄い。正確に言えば前作における”主任”の存在感が(故・藤原啓二氏の怪演も含めて)が大きすぎたと言えるだろう。より残念なのは世界観やキャラクターが非常に魅力的なことだ。シリウス、ヴェニテ、EGFの3大勢力による覇権争い、旧時代のテクノロジーを駆使する、嘗ての”企業”を思わせる”財団”の存在、そこで寄る辺の無い独立戦力として戦う傭兵達。舞台設定としては問題なく合格点だ。本作のシナリオは傭兵の一人であるプレイヤーと、”財団”との対峙に焦点が当てられているが、ここに3大勢力を交えた関係が描かれれば更に充実した内容となっただろう。オンラインマルチが主力である以上、シングルプレイはこのあたりが限界とはいえ、勿体ないとは思わざるを得ない。そう思うしかないほどに魅力的な素材なのだ。この素材を存分に活用した”V系”のシングル主体の作品を渇望するのは自分だけではないと思う。

 

※注意。以下ラスボスについてのネタバレを含みます。

 

 

 

本作のストーリーにおける白眉はラスボス戦に尽きるだろう。世界の更なる騒乱と、それによる人類の自滅を誘う”財団”は、それを阻害する要因と目した主人公を抹殺するために次々と刺客を送り込む。旧時代のテクノロジーを基にした自立兵器、腕利きの傭兵達、正体不明のAC隊「死神部隊」、そして嘗ての仲間であるブルー・マグノリア...。

その全てを打ち破った主人公を最後に迎え撃つ”財団”のAC。そのシルエットは”4系”のプレイヤーならば気づかずにはいられない、あの”ホワイト・グリント”だ。しかしその機体はその名を示す白ではなく漆黒に覆われた、いわば”ブラック・グリント”。搭乗するのは死神部隊のリーダー。CVを担当するのは中田譲治氏。言わずと知れた”4系”第1作、『ARMORED CORE4』におけるホワイト・グリントのパイロットであるジョシュア・オブライエンを担当した声優だ。

これは興奮するしかないだろう。おまけにこの”ブラック・グリント”、”V系”の世界では失われたと思われたコジマ技術まで駆使した戦いを展開する。”V系”の舞台は”4系”の未来だが、ここに来てARMORED COREにおける2つの世代が交錯するかのような展開。シリーズを追いかけてきたファンに対する素晴らしいプレゼントだ。昨年『AC4』から始めたにわかファンの自分ですらこの演出には感嘆した。正直前作のラスボス程は苦労しなかったのだが、演出面では大満足。

それだけに、と思わずにはいられないのがファンの性(さが)。ラストバトルで”4系”と”V系”の世界について、単なる時系列ではないレベルで交錯する可能性を見せてくれたのだから、その交錯の果てが見たいと思う自分を誰が責められよう。ラストバトルの演出に興奮を覚えただけに、この生殺し感は堪える。本作をリアルタイムでプレイしていたファンにとってはなおさらだろう。「ACの新作」は今後しばらくネットミームであり続ける。本作をプレイしてその感が更に強くなった。

 

現時点における”最新”にして”最終”のARMORED CORE。願わくば”最終”とならないことを願うものである。

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