『Audiosurf2』 好きな音楽で楽しむ、”音ゲーメーカー”の実力は?

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『Audiosurf2』を数時間程プレイ。今年のSTEAMサマーセールで購入した作品の一つ。

所謂”音ゲー”なのだが、その最大の特徴はMP3等、手持ちの音楽ファイルを使用することが出来る点。それも単にBGMとして使用するだけではなく、使用した音楽ファイルに合わせてステージが生成される点だ。予め用意された曲ではなく、自分の好きな曲で生成された音ゲーをプレイする。メジャーな音ゲーには絶対に採用されないであろうジャンルやバンドを愛好するプレイヤーにとっては心惹かれる仕様だ。セール中ということで価格も非常に安かったのでものは試しに購入してみた。 

『Audiosurf2』とは?簡単に紹介

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上がスタート画面。日本語には対応していないが全く問題なし。一番左の”BROUSE SONGS”でPC内の音楽ファイルを指定して使用する曲を選択する。真ん中の”BROWSE MODES”でゲームモード、右の”BROWSE SKINS”で使用するスキンを指定、右下のボタンをクリックしてゲーム開始だ。

ゲームモードは基本となるモードが3種類存在している。

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障害物(スパイク)を避けつつブロックを取得する”MONO”、

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3色のブロックを取りつつ、縦横に同色のブロックを取得すると高得点となる”Casual Puzzle”、

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ブロックを取りつつ起伏に合わせてジャンプ。ジャンプの飛距離により高得点が取れる”Wakeboard”、以上の3つのモードが基本として用意され、更にそれぞれのモードに派生的なサブモードが用意されている。いずれも選択した曲に合わせてブロックやスパイクが配置され、更にゲームスピードやステージ(カーブや起伏など)も自動生成される。

本作はSTEAMワークショップにも対応しているため、SKINだけでなくゲームモードについても有志が作成した数多くのMODが投稿されている。好きな曲で色々なゲームモードやSKINを楽しむだけでも楽しめるだろう。

音ゲーメーカー”としての実力や如何に?

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本作は使用する音楽に合わせてステージが自動生成される点が売りである、いわば”音ゲーメーカー”的な作品だ。単に自分の好きな曲をBGMに使用できるというだけではない。言ってみれば自分の好きな曲で『太鼓の達人』や『ビートマニア』を楽しめる、と言ったコンセプトの作品だ。

いや、これは凄い事だ。これが本当なら音ゲー業界激震間違いなしだ。実際ワークショップもかなりの盛り上がりを見せている。音ゲー好きならこれ一本買えばもう何も買う必要ないのではないか。

 

しかしこうも思うのだ。そんな美味い話があるのか?

 

ならば確かめてみよう。

 

実のところ本作を購入した動機のうち、半分は最初に書いたように自分の好きな曲で音ゲーを楽しむことにあったが、その半分はその謳い文句に少なからず疑念を抱いており、それを確かめてやろうという意地の悪い興味だ。

実際音ゲーをファイルから自動生成するのはかなりハードルが高い。現在でも音楽ファイルから楽譜を自動で採譜するソフトに十分な品質のものが少ない事でもそれが良くわかる。音楽ファイルを構成する”音”には様々な領域が存在し、人間の耳では聞き取れない音域についての情報も含まれている。その中から可聴域の、しかも人間の耳で音楽の構成要素と認識される音だけを抽出し、譜面化することは技術的にはまだ難しい点が多い(このあたりAIをもっと活用すれば一気に革新が進む気がするが、本稿ではそれについては語らない)。

しかも本作はそれを”音ゲー”の形にデフォルメしなければならない。『ビートマニア』や『太鼓の達人』をプレイしたことがあるならよく分かると思うが、譜面をそのままなぞるだけでは”音ゲー”に落とし込むことは出来ない。楽曲というものは複数の要素から構成されている。メロディー、リズムと言った基本要素があり、前者は主旋律と副旋律に分かれることもあり、後者は拍、ピッチなどさらに細かく分類される。これらの要素を組み合わせてゲームとして構成するには、一人のプレイヤーの操作で一貫した流れを構成するように、時にはメロディーに、時にはリズムに、時にはその組み合わせでボタンを押し、まるで演奏するかの如く違和感の無いプレイが可能なようにデザインする必要がある。いわばゲーム的な”採譜”だ。

 

で、『Audiosurf2』をプレイした感想なのだが、本作を”音ゲーメーカー”と捉えるなら、その品質は未だ道半ばと言った所だろう。色々なタイプの曲でプレイしてみたが、曲によってかなり採譜の質にばらつきが出る。スロー/ミドルテンポの曲は比較的違和感の無いプレイが出来る曲が多いが、ハイテンポの曲はほぼ全滅だった。また、音が重なる程に採譜の質が悪くなる。特にロック系は厳しい。リズムがドラムとベースに分かれており、更にギターのリフがそこに重なると、それぞれをつまみ食いするような採譜となり、曲とプレイが全くシンクロしなかった。楽器ごとにメロディとリズムの担当がはっきり分かれているようなタイプの曲は比較的違和感の無い採譜が出来ているように感じた。

恐らく制作陣も意識していると思うが、EDMのようなノンボーカルでリズム主体、パートのリフレインを多用するタイプのジャンルには適合性が高い。半面ハードロックやヘビーメタルのようにそもそもピッチが速く、音符の密度が濃く、リズムセクションが多様なタイプの楽曲には適合性が低い。ボーカル主体の曲もメロディとリズムのどちらを主として採譜するのかが中途半端でかなり違和感を覚える内容だった。

現時点では本作は”音ゲーメーカー”と言うには少々厳しい。好みの曲でステージを自動生成するスコアアタック型のゲーム、といった所が精々だろう。とはいえそれだけでも好きな音楽をBGMに、曲に合わせたステージをプレイする、というのは中々面白い体験だ。ちょっとした時間を潰すにはちょうど良い。セール価格を考えれば十分な品質だろう。

とは言え”音ゲーメーカー”としての可能性も感じる作品。曲によってはかなり品質の高い採譜をするので、精度が上がれば化ける作品なのかもしれない。 

実際のプレイで確認

色々と書いては見たが、音ゲー的な本作を言葉で語るのは難しい。実際にプレイするのが一番なのだが、それでは本末転倒だろう。そこで実際のプレイを動画で公開することにした。それぞれジャンルや店舗も異なる曲をラインナップしたので、本作に関心があるならば参考にしてほしい。なお、本作における筆者のプレイスキルは誉められたものではないのでご容赦いただきたい。 

Distrion&Alex Skrindo

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EDMから一曲。ゲーム実況でもよく使われる曲。記事でも書いたようにEDMは本作と相性が良い。

Mike Oldfield 「Moonlight Shadow」

ロック系でもミディアムテンポの曲やバラードはそれなりに音ゲーらしく仕上がるようだ。

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Damn Yankees 「Don't Tread On Me」

アメリカンハードロックの雄から一曲。ハードロックやヘビーメタルはかなり厳しい結果だった。このくらいのテンポがギリギリ。

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Riot 「Thundersteel」

スピードメタルで1曲。このレベルになると採譜でスネアを拾ったりバスドラを拾ったりリフを拾ったりとかなり混沌としてくるようだ。

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Kraftwerk 「Computer Love」

テクノから1曲。合うと思ったのだが意外にそうでもなかった。

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Jesus Jones 「Who?Where?Why?」

ハウス系ロックから1曲。打ち込みと生のリズムの組み合わせも相性はあまり良くないようだ。

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Queen 「Under Pressure」

ゲームモードが”MONO”なら結構合っていたと思う。ジョン・ディーコンの楽曲はベースラインが目立つのでそれなりにマッチするだろう。

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(2020年11月18日追記)

『Audiosurf2』の紹介動画をYoutubeに投稿しました。

youtu.be

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