『DOOM』(2016) 最高級のB級

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DOOM』(2016年版)をクリア。所要時間は21時間。

FPSというジャンルは大きく2つに分けられる。『Half-Life』前と後だ。FPSという形式に明確なストーリー性を導入し、シナリオドリヴンな進行で現代FPSの主流となるスタイルを築き上げたのが『Half-Life』。その『Half-Life』以前の作品で、そもそもFPSというジャンル自体を築き上げた看板IPが『DOOM』だ。

言わば”オールドスタイル”FPSの代表ブランドである『DOOM』、そのリブート作品と言えるのが2016年に発売された本作である。同じくオールドスタイルFPSの代表作品である『Wolfenstein』が、リブート以降は現代的なシナリオドリブンなスタイルに方針転換を図って成功した一方で、本作の大きな特徴は寧ろ原点回帰したとすら言えるそのプリミティブなプレイスタイルだ。

”戦闘”の快楽を追及したプレイスタイル

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本作のゲーム性はいたってシンプル。一言で言えば”Run&Gun”。とにかく走り回り、飛び回り、撃ちまくり、殴り散らかす。目に入るデーモンを全て殲滅する。それだけだ。

シナリオは有って無きが如し。碌なオープニングもチュートリアルもなく、いきなり銃を持たされて戦場に放り込まれるのだ。何をすればいいか聞く方が野暮というものだろう。

アリーナ風にデザインされたマップを止まることなく駆け回りつつ、ひたすらデーモンに銃弾をぶち込み、グローリー・キルをキメる。言ってしまえばこれをクリアまでひたすら続けるゲームなのだが、これが矢鱈に楽しい。とにかくシューターとしての楽しさに特化したとも言える作品で、溢れるドーパミンを抑えられない。

シューターとしてのデザインにもそれは現れている。まず他のFPSと比較してとにかくスピーディだ。ダッシュは無いが、そもそも通常の移動速度が普通のFPSにおけるダッシュ並の速度だ。もちろんスタミナなどという概念は存在しない。ステルスやスナイプなど存在しない。敵はあらゆる場所からスポーンするため安地などというものも存在しない。アリーナを高速で駆け抜け、デーモンに近距離からスーパーショットガンをぶち込み、グローリーキルをお見舞いするのが本作の真骨頂だ。これだけ戦闘が楽しければシナリオなど正直二の次と言っていいだろう。

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溢れるB級感は類稀なセンスの表れ

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同時に唸ったのが本作に溢れる”B級感”だ。実際にプレイしてみれば分かるが、本作は『DOOM』の名を冠するタイトルだけに正にAAA級、膨大な時間、費用、人員を費やした大作だ。

しかしどうだろう、この作品の隅々まで感じるチープで下品で粗野なヴァイブは。正にB級アクション映画そのものの感覚だ。敢えて言っておくが非難しているのではない。寧ろ称賛、それも最高レベルの称賛を送りたい気分だ。これほどのコストをかけた大作でありながら、”娯楽”であることに1ミリの疑いも持たないその潔さ、素晴らしいとしか言いようがない。ゲームというメディアに娯楽以上のものを求めることに異論はないし、寧ろ推奨されるべきだと思うが、それは作品の性質によるだろう。少なくとも『DOOM』というIPに娯楽以上のモノはいらない。その覚悟とも言える思いが画面から伝わってくるようだ。冒頭でも書いたようにFPSというジャンルは『Half-Life』を皮切りに”物語性”と”シナリオ・ドリヴン”という大きな武器を手に入れ、ジャンルとして隆盛を迎えた訳だが、そのトレンドに真っ向から逆らうように、純粋なシューターとしての快楽を追及した作品が本作であり、それに相応しいコンセプトデザインだ。その迷いなき選択には開発者の優れたセンスを感じずにはいられない。

膨大な費用と最上級の素材で組み上げられた至高のB級作品、それが『DOOM』だ。

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FPS”の元祖、いまや”孤高の作品”か

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2016年に発売された本作は、FPSの原点ともいえる老舗IPでありながら、そのスタイルを踏襲することに依って逆に、『Half-Life』以降の現代FPSとは一線を画した独自の輝きを放つことになった。いわばFPSの元祖とも言える作品が孤高のスタイルを保っているわけだ。これは皮肉と言うべきなのだろうか。ともあれ本作の大ヒットはストーリー重視の流れからオープンワールド化へとシフトが進み、より複雑さを増すFPSというジャンルへの一つのアンチ・テーゼと言えるかもしれない。言ってみれば70年代のショー化が進むロックや技術偏重のプログレッシブ・ロックに対するカウンターとしてのパンク・ロックのような存在と言えるだろう。

DOOM』自体も本作の前に発売された『DOOM3』では『Half-Life』寄りのスタイルを採用し、しかも大ヒットを記録していたにも関わらず、本作ではそのスタイルを原点回帰にシフトして、尚且つ成功に導いたのだから、開発者のセンス、嗅覚はビジネス的な意味でも驚異的だ。最新作『DOOM Eternal』は未プレイだが、動画を見た限りそのスタイルは踏襲しつつも、シューターとしては更なる進化を遂げているようだ。売り上げも本作を超えるペースで達成中とのことで慶賀に堪えない。

本作のようなプリミティブなスタイルのFPSは、現在ではインディー作品にこそまだ見受けられるが、AAA級のタイトルでは『DOOM』以外では『Serious Sam』シリーズくらいだろう。今後とも是非孤高の、そして最上級のB級を貫いてほしいものだ。

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