『DYSON SPHERE PROGRAM』 差別化の決め手は”ロマン”にあり

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DYSON SPHERE PROGRAM』をクリア。最終研究項目である”Mission Complete!”が完了した時点での総プレイ時間は142時間。

今年1月にアーリーアクセス版がリリースされた工場自動化系の産業シム。同ジャンルとしては『Factorio』や『Satisfactory』が該当する。

リリース直後から大きな話題となり、好調な売り上げを記録した本作最大の特徴はタイトルにもある「ダイソン球」。物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した恒星を丸ごと包み込み、そのエネルギーを余すことなく活用することを目的とした未来の超巨大構造物。そのダイソン球を建造することが本作の目的である。

 

明確な”Factorioフォロワー”、しかしその品質は高い

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開発者自身が認めているように、本作は明確な”Factorio”フォロワー作品である。ゲーム開始時点でプレイヤーの分身である多機能建設ロボット”イカロス”は人の手が一切入っていない大地に降り立つ。まずは自身の手で鉱石を採掘し、素材や部品をクラフトするところから始めて、研究を進めることで採掘機や精錬所、組立機などの制作が可能となり、それらを組み合わせたラインを構築し、工業区画を建設することで大量生産を実現する。

ゲーム性としては正に『Factorio』そのものと言って良いだろう。最新の作品だけにグラフィックは格段に進歩しているし、SFがテーマであるだけに研究でアンロックされる施設や素材も粒子加速器反物質など未来的なものが多いとはいえそれはゲーム性においては枝葉の部分に過ぎない。

本作は現時点でアーリーアクセス中の作品であるため、その点は割り引いて考える必要があるが、コンベアの仕様がシンプル(1列のライン、ライン分割や結合パターンの少なさ)であったり、研究項目の階層が浅いことなどから、『Factorio』に比べるとかなり初心者向けの仕様であると感じた。『Factorio』をプレイしてみたものの、複雑すぎて断念したプレイヤーは一度本作をプレイしてみるのも良いと思う。一方で工場自動化系の産業シムとして見た場合、『Factorio』をやり込んだプレイヤーには少々不満がのこる内容と言えるかもしれない。

”ダイソン球”のロマンが作品を差別化する

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この”工場自動化系の産業シム”というジャンルは、ニッチながらも確固とした地位を築きつつあるジャンルではあるのだが、そこで鬼門となるのが『Factorio』の存在である。この『Factorio』、このジャンルのフォロワー達にとっては鬼門とも言うべき存在で、マーケットのパイオニアであるこの作品、とにかく完成度が高く、そして無性に中毒性が高く、面白過ぎるのである。

そのため工場自動化系のシムは常に『Factorio』と比較される運命を背負って船出することになる。そして比較対象が悪すぎるので、劣後的な評価しか得られない作品が非常に多い。色々な意味で罪作りなのである、『Factorio』という作品は。

ならば本作の評価は?工場自動化ゲームとしての品質は非常に良い。自分が『Factorio』をプレイ済だからかもしれないが、日本語対応していない本作をクリアまで英語でプレイしながらも、ユーザーインターフェースやゲーム仕様の面で戸惑う場面はほとんどなく快適にプレイできた。Look&Feelで迷うことが少ないというのはデザインが非常に優れている証明だろう。

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工場自動化ゲームとしても間違いなく楽しめるレベルにある。採掘、加工、組立等の行程をそれに対応する施設で行い、原料や材料を輸送する効率的なラインを組み上げる醍醐味を存分に味わうことが出来る。このジャンルは”お好きな人には堪らない”と言うヤツで、興味の無い向きには全く理解できないのだが、ハマる人はとことんハマる。

しかしそれでも偉大な先達の壁は高い。ここまでの評価であれば本作はあくまで”出来の良いFactorioフォロワー”に留まる作品でしかない。しかし本作はそれ以上の魅力を証明することが出来た作品だと考えている。その要因は何だろうか?

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それは”本作に有って『Factorio』に無いもの”が明確に存在するからだ。

平凡な表現で言えばそれは”ロマン”という事になるのだろう。ダイソン球を建造するという目的そのものがSF的ロマンに溢れているが、これをゲームプレイを通して体験するその演出が非常に素晴らしかった。

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ダイソン球の建造には幾つもの行程が存在し、その工程が進むごとにそれは世界に反映される。素材となるソーラーセイルを射出すると、それが恒星を囲む光の環となってプレイヤーの目の前に現れる。ダイソン球の骨格を建造するために打ち上げたロケットは実際に恒星まで辿り着きフレームを展開する。そして徐々にダイソン球がその姿を現してゆくその様をプレイヤーは目の当たりにするのである。

実際にプレイして、自ら作業して構築した生産ラインや工業区画のアウトプットが宇宙レベルで反映されるという体験は非常に興奮した。このワクワク感は間違いなく本作の個性と言って良いだろう。この点で言えば『Factorio』は演出面が非常に淡白で、寧ろその無類の中毒性により、最終目的を果たす頃にはその目的がどうでもよくなっている点に個性があると言って良いだろう。

大前提としてその品質の高さやデザインの秀逸さがあり、この”ロマン”という切り口で明確に先達との差別化を達成した本作は間違いなく工場自動化というジャンルで名作の仲間入りを果たす作品となるだろう。Steam上で”圧倒的に好評”の評価を維持していることも納得の作品だ。

本作の登場とヒットが表すもの

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ゲームの内容以外に注目したいのが、本作が中国の新進ゲームスタジオであるYouthcat Studioのデビュー作であるという点だ。本作のような骨太なハードSF作品が、ゲームというメディアで、更に工場自動化シムという些かニッチなジャンルで登場し、さらにこれほどに優れたものであったことは少なからず驚きだった。正直これが欧米や日本のスタジオでリリースされた作品なら、そこまでの驚きは無かっただろう。

ここまで本格的なハードSF作品を、ニッチなジャンルで、しかも高品質にリリース出来るだけの層が既に中国において育っている証左と言えるのだろうか?

しかしよく考えれば中国でSF作家劉慈欣のベストセラー『三体』が発表されたのが2006年、SF界の最高峰であるヒューゴー賞を受賞したのが2015年、その読者世代が創作の最前線に躍り出ても不思議はない。単にゲーム業界に留まらず、現在の中国SFにおける豊かな可能性を示す一作であると言えるだろう。

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ちなみに一つ余計な話をしておくと、本作の開発元が中国という事でその品質に不安を覚える向きもあるだろう(正直に言えば自分もそうだ)。おまけに本作はアーリーアクセスであり、バグやその内容は大丈夫なのかという懸念もあるだろう。

その点については全く心配ないと断言できる。本作をプレイした140時間でクラッシュやフリーズ、データの破損と言った深刻なバグはおろか、軽微なそれすら殆ど遭遇することは無かった。またコンテンツについてもアーリーアクセスのリリース時点でゲームクリアまでプレイ可能な内容となっている。140時間存分に楽しんだのだから間違いない。寧ろ今後のロードマップでここから何を追加するというのだ、というくらいの完成度だと言える。正直正式版としてリリースしても問題ない品質と言えるだろう。

 

工場自動化というジャンルにおいて、遂に登場した『Factorio』に比肩する作品が遂に現れた。そう評価することに迷いは感じない。(ちなみに『Satisfactory』は未プレイ。1人称ゲームは酔うので...)

 

最後に本作についてはそのプレイの殆どを動画にしてYoutubeに投稿しており、最初の動画が本作の紹介動画となっている。本作に興味のある方は一度ご覧になっていただきたい。更にその先のプレイ動画まで視聴していただけるとまことに幸甚。

【Dyson Sphere Program】ダイソン球開発日誌 - YouTube

www.youtube.com