アイ・ロボット:名作から生まれた凡作

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評価:1点(5点満点)

総評

※本作およびアイザック・アシモフ作品の一部ネタバレがあります。

2004年公開、アイザック・アシモフの名作SF短編集の名をタイトルに冠したSF映画です。SFは好きなジャンルなので、メジャーな作家はある程度読んでいます。その中でもアシモフは最も好きな作家であり、小説もほとんど読破しています。本作も公開当時、アシモフのファンとしては気になっていたのですが、ウィル・スミスのアクションスターとしてのイメージがどうしてもアシモフ作品と合うと思えず、視聴を敬遠していた作品です。この度FOXムービーで放映していたので視聴してみました。

なんと言うか...凡作ですね。可もなく不可もない。本作はアシモフ作品にインスパイアされたものであり、同氏の作品の映画化ではないことは知っていたのですが、もう少し何とかならなかったのでしょうか?映画の冒頭でおなじみのロボット工学の3原則をナレーションにするくらいですので、アシモフの短編のように3原則を使ったトリックや伏線を張った脚本を期待したのですが、3原則自体は単なる舞台設定並みの扱いで、脚本に活用されることはほとんどありません。冒頭部分でUS・ロボット社を脱走したサニーをウィル・スミス演じるスプーナーが捜索するシーンなど正に3原則をうまく利用できるシーンだと思うのですが、マッチョなウィル・スミスが主人公では望むべくもありません。

それでも本作の脚本家はいろいろと努力しているとは思うのですね。特に原作者たるアシモフへのオマージュと言うべき要素を本作に取り込もうとした苦心の跡が見られます。キャラクターは全く異なります(それがまた残念)が、ヒロインにあたる女性の名はアシモフ作品でおなじみのスーザン・カルヴィンです。本作の主人公である刑事のスプーナーとロボットであるサニーの関係は、こちらもおなじみのイライジャとダニールが原型だと思われます。ロボット嫌いと言う設定のスプーナーが最終的にサニーを信頼するようになるなどの流れを見る限り間違いないでしょう。また、本作の黒幕にあたるキャラクターが動機として語る内容は、それと明示されてはいませんがアシモフの『ロボットシリーズ』と『ファウンデーションシリーズ』を繋ぐ重要な要素である「ロボット工学の第零法則」そのものですね。

このようにいろいろと努力はしているのですが、脚本として全く生かされておらず、結局「ロボット(コンピューター)による人類の支配」といった陳腐なシナリオ以上の内容には成り得ませんでした。アシモフ作品におけるロボット工学の第零法則はそんな単純な結論を出すような代物じゃないんですよ...

色々と惜しいなあとは思うのです。アシモフ作品のようにもっと3原則をストーリーに組み込んだ脚本にしたり、スプーナーとサニーのバディ感を早めに醸成するなどすればもっと面白い作品になったのに、などと色々考えてしまいます。

結局SFファンにもそうでない観客にも響かない、「ウィル・スミス主演のSFアクション」でしかない内容となってしまった気がします。

アシモフについてはもう1作「バイセンテニアル・マン」が「アンドリューNDR114」(この邦題もセンスがなさ過ぎて萎える...)として94年に映画化されていますが、これまた原作を知るものとしては本作をはるかに上回る駄作でした。つくづく映画化に恵まれない作家です。愛読者としてはちょっと残念。