BS世界のドキュメンタリー『ヒトラー『我が闘争』~封印を解かれた禁断の書』

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ヒトラーの著書である『我が闘争』が、ドイツでは発行禁止状態にあることは知っていましたが、これは法律で規制していたのではなく、著作権を管理しているバイエルン州が出版を認めていなかったからだというのは番組を視聴して初めて知りました。

その著作権が、ヒトラーの死後(1945年没)70年を経てパブリック・ドメインとなるにあたり、『我が闘争』の発行を巡る関係者の対応を追うドキュメンタリーです。

表現・発行の自由とファシズムレイシズムと言った類の過激思想との関係は自由主義社会ではどこにでも存在するジレンマです。表現・発行の自由が何よりも尊重されるのであれば、それは自由主義ヒューマニズムと言った既存の社会の大勢にとって好ましいものだけではなく、過激主義にすらも適用されなければなりません。そうでなければ社会の大勢ではないが、過激主義ではない他のマイノリティな思想・信条を制限することにもなりかねないためです。

表現・発行の自由をどこまで認めるべきか、と言う点においては国によって対応に差があり、欧州各国はレイシズムや宗教差別につながる言説(いわゆるヘイトスピーチ)については表現・発行の自由の枠内に含めない方向で法律が整備されており、特にドイツではヒトラーナチスへの称賛は刑事罰の対象となり得ます。

そのため2016年に著作権が失効した『我が闘争』について、出版を禁止するのか、否定的な注釈を加えた版を発行するのかについて議論が分かれたという内容です。

これは番組内でも触れられていますが、著作権失効前でも『我が闘争』はインターネット上に違法に掲載され、比較的アクセスしやすい状況ではあったのですね。また、実際に読むと分かりますが、『我が闘争』は800頁弱のボリュームに加え、内容が整理されておらず、何が言いたいのか要点が伝わりにくい本です。筆者が言いたいことを言いたいように書いた本で、読者への分かりやすさはほとんど考慮された本ではなく、これが現在再出版されたとしても、多くの人が読むとは考えづらいです。

それでもなお、イスラエル政府や独ユダヤ人団体が発行に反対したのはやはり本の発行が象徴的な意味として政治利用される危険を忌避したということでしょうか。やはり紙の本という形にのこるものの影響はまだまだ強いということなのですかね。

最終的に『我が闘争』の出版は解禁されるのですが、現在でも論議を呼んでいるようです。ちなみに日本では普通に購入できます。私も昔図書館で手に取りましたが、最初の50頁で挫折しました。ほんとに読みづらいんですよ、この本。よほどの興味がない限り読み切ることなんてできません。