NHKドキュメンタリー「シリーズ“脱炭素革命”(1)「激変する金融ビジネス “石炭”からの投資撤退」」:舵は切られている

2/26放送の「シリーズ“脱炭素革命”(1)「激変する金融ビジネス “石炭”からの投資撤退」」を視聴しました。

 

www.nhk.or.jp

このテーマを特に熱心にトレースしていた訳では無いですが、それでも世界の潮流と自分の意識とのずれを感じざるを得ない内容でした。

所謂「脱炭素社会」への潮流を追うシリーズの1回目なのですが、今回は主に投資の面からの取り組みについての取材内容となります。

その前段として取り上げられるのが「ダイベストメント運動」です。「ダイベストメント」とはもともと投資しているポートフォリオから、倫理、道徳面で不適切であり、投資面でのリスクとなりうる企業を除外することを指していました。知られたところでは環境汚染や児童労働に対する改善への取り組みが不十分としてユニクロやナイキ、任天堂などもやり玉に挙がったことがあります。

この「ダイベストメント」が、対象となるテーマが「脱炭素(または脱化石燃料)」に絞られた形で社会運動化し、エネルギー会社のみならず金融会社や投資機関に対する現実的に大きなプレッシャーとなっていることが紹介されています。

つまり脱炭素をテーマとする「ダイベストメント」が投資家へのプレッシャーとなっているということは、投資家の対象選定の条件に一つに「脱炭素」というテーマがすでに加わっているということになります。これは現実のビジネスではかなり大きな影響を受ける話で、例えばここ20年で「コーポレートガバナンス」や「コンプライアンス」と言ったテーマが投資家の選定条件に加わることで、この両語が株主に公開される資料に記載がない会社は無い(=取り組みのない企業は投資に値しないと判断されるため)という状態になったことを考えると、そこに「脱炭素」が加わることは間違いないと思います。

懸念のしすぎでしょうか?しかしながら、すでに世界的な投資機関や金融機関の多くが「脱炭素」をテーマとしたダイベストメントに着手しており、そのことは番組の中でも取り上げられていますが、他のソースでも確認できます。

ダイベストメント | Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・CSR

また、日本の株式市場における外国人の持ち株割合を考えると、ダイベストメントの影響は早々に現れてもおかしくない状況でしょう。

外国人持株比率 | ランキング | 会社四季報オンライン

また、パリ協定における「今世紀後半までにCO2排出量を0に近づける」と言う目標から逆算すると、「今後人類が排出できるCO2は1兆トン、現在の排出量で言えば20年分」と言うのもなかなかのインパクトです。

これまで石油をはじめとする化石燃料資源は、その埋蔵量が有限であるところに価値の源泉があると同時に、その有限さ故にエネルギー危機への懸念があったわけですが、その認識はすでに古く、むしろ現在の環境は、その埋蔵量を燃やし尽くすことなど許されない状況にあり、資源の埋蔵量にその価値を依存していた会社の投資価値が急落しているというの話は、昔ながらのローマクラブの石油枯渇説を知るものとしては少なからぬ驚きです。

この「脱炭素」の潮流は、すでにエコロジーを軸とした社会運動の枠を超えて、投資家に現実的なプレッシャーを与え、社会の方向性の転換を実現する大きな潮流となっていることがよくわかる内容でした。そうなると気になるのが日本の取り組みです。「脱炭素」も「ダイベストメント」もさほど関心が高くなく、政治でも報道でも取り上げられることが少ない日本は正直なところこの潮流からは大きく取り残されている気がします。もともと私がこの番組を観る気になったのも、購入している山口正洋さん(ぐっちーさん)のメルマガで、アメリカにおける脱炭素への取り組みが良く取り上げられていたからなのですが、そのメルマガでも言及のあった日本の低CO2石炭火力発電所がこの番組でも取り上げられていました。番組ではやんわりとした指摘でしたが、この件海外からはCOP23でかなり批判の的になっていたようなのですね。この脱炭素の潮流の中で「日本の技術ならば低CO2の火力発電が可能!」とゼロ・エミッション前提の会議で意気揚々と発表するということをしでかして、日本企業は大きく株を下げたようです。もう「日本の先進的な環境技術」などとはとても言えません。低CO2ではそもそも門前払いなのですが、この潮流に企業や政府だけでなく、社会全体が取り残されている気がします。

日本の場合どうしても議論が「脱炭素」より「脱原発」にフォーカスしてしまうのが残念ですね。つくづく福島原発事故の影響の大きさを感じます。「脱原発」のほうが声が大きく、政治的なイッシューになりやすいからなのでしょうが、テーマとして矮小化されている印象はぬぐえません。もっと視野を広く「脱炭素」の潮流に取り組まないと10年後に大きな差になっていると思われ、多少なりとも日本株へ投資をしている身としては大変気がかりです。すでに脱炭素の取り組みでは中国やインドのほうが先に進んでいる点も多いこともあまり知られていないでしょうね。温暖化への取り組みにおいて「先進国対途上国」の構図がすでに過去のものとなりつつある中で、火力発電への依存が大きく、その技術の海外へのインフラ輸出を促進する日本がむしろ批判の矛先となりかねないことはもう少し知られても良い気がします。

「脱炭素」の潮流は、良い悪い、正しい正しくないとは関係なく、すでに動き出しており、イデオロギーも超越した現実の動きです。好き嫌いはともかくこの流れにはもっと注目が集まってほしいと思います。(そういう意味でもよい番組でしたね)