ある戦争:答えのない問いを巡って
評価:4(5点満点中)
総評:
2015年公開のデンマーク映画。アフガニスタンに駐留するデンマーク軍の士官クラウスは、作戦中に自らが下した命令の結果、11人の民間人が犠牲となり、帰国後にその責任を軍事法廷で問われることになる。戦場における彼の判断は正しいものだったのか?
戦争をテーマとした映画としては地味な作品と言えます。殊更に愛国心や、その逆に反戦などの分かりやすいメッセージを強調するタイプの映画ではありません。派手な戦闘シーンが売りというわけでもなく、前半に描かれるのは、むしろどこか淡々としたアフガニスタンにおける駐留部隊の危険な日常です。本作の主人公であるクラウスは、その危険と隣り合わせの日々の中で、職務の遂行と部下への配慮の板挟みになりながらも最善を尽くす、軍人としての有能さと人間としての規範の高さを併せ持つ人物として描かれているように感じられました。
それだけに、本作の主題となる命令をクラウスが下したことについて、視聴者は答えのない問いを突き付けられることになります。
「クラウスの行為は犯罪として処断されるべきなのか?」
これはとても難しい問いです。視聴者は命令が下されるその瞬間まで、クラウスの視点から物語を観ています。そのため彼に対する感情移入があるためその命令が必要なものであったということを共感するでしょう。一方でその命令の結果失われた命があることも厳然たる事実として存在しており、それを無視することは出来ません。
どちらの答えにも依ることは出来ないこの問いについて、製作者は視聴者に判断を委ねる手法を取ります。ネタバレになるので詳細は避けますが、本作の終盤における、クラウスの裁判における決着は、おそらく感情的には共感できますが、倫理的には抵抗感が残る内容となっており、そのジレンマが本作の鑑賞後におけるなんとも言えない余韻となっていると感じました。
この答えの出せない問いを巡るドラマを、製作者はBGMも感情的な効果を狙う演出も(おそらくは意図的に)一切を排して描きました。そのことが本作の投げかけるテーマにより深みを与え、リアルな質感を与えることに成功しています。
娯楽として鑑賞するタイプの映画ではありませんが、一つのテーマを巡るドラマとして優れた作品であると思います。