『Undertale』 あ な た は ど っ ち ? ? ?

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※ネタバレ要素含む

『Undertale』をクリア。所要時間は約11時間。2015年の発売以降、評判が評判を呼び、鰻登りにその評価を上げ、いまやインディーゲームを代表する名作となった一作。

舞台は人間とモンスターが併存する世界。両種族の争いの結果、モンスターが地下へと追いやられた世界。主人公は地下世界に転落したところをモンスターに助けられ、地上世界に帰還するために冒険の旅に出かける。

粗筋だけ書いてしまうと実にテンプレなファンタジーだが、そう簡単な作品ではない。秀逸なBGMとドット絵で表現された地下世界を舞台に繰り広げられる本作のキャラクター達は、皆一癖も二癖もあり一筋縄ではいかない。キャラクターのアクの強さだけでも中々に人を選ぶ作品だろう。スクリーンショットを2,3枚見た程度で受けるメルヘンチックな印象はプレイして間もなく裏切られることになる。

 

 

ジャンル付けが難しい作品

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おまけに本作はそのジャンル付けが実に難しい。一見ファンタジー的なRPGにも見えるが、その実RPG的な要素は非常に浅い。地下世界を舞台にしたゲームプレイには、ランダムエンカウントあり、ボス戦あり、アイテムショップあり、宿屋ありと、RPG的な要素は揃っているように見える。

しかし本作の「バトル」要素がそれを裏切る。通常のRPGのように敵を攻撃して倒し、経験値やお金を手に入れることも出来るが、それと同等な手段として「コミュニケーション」が存在する。遭遇した敵と会話し、時に励まし、時に慰めるなど適切な交流を行うことで戦闘を避ける事も可能だ。「コミュニケーション」が「バトル」と同等に存在しているからなのか、武器や防具などの装備品や、ステータスの類は非常にシンプル、と言うよりは貧相と言っても良い内容なのだ。

おまけに「バトル」画面における敵の攻撃は所謂コマンドバトルではなく、敵により異なる多彩な攻撃から自機を操作してこれを躱していく、と言った内容でまるでシューティングゲームだ。

さらに舞台となる地下世界には豊富なギミックが用意されており、それらを解き明かして先に進む様はまるでパズルゲームだ。

このごった煮のような作品のジャンルをどう表現すれば良いのだろうか?

 

極めて演出に優れたADVだが...

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プレイした感触で評価するならば、本作のジャンルはADV(アドベンチャーゲーム)というのが一番近い。つまり重要なのはシナリオであり物語。RPGSTG、パズルゲーム的な要素は全て演出と言って良い。但し、演出と言ってもこれは本作のシナリオにとって不可欠な演出だ。本作のシナリオは所謂テキスト選択型のADVでも十分実現可能だと思うが、この演出方法を選択したことが、本作を名作に押し上げた一因と言えるだろう。

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本作にはシナリオとして3つのルートが用意されている。通常エンドのNルート、真エンドのPルート、そしてバッドエンドのGルートだ。

ゲーム中におけるプレイヤーの行動によってルートは分岐する。肝となるのは先述した「バトル」における行動だ。戦って敵を倒すのか、コミュニケーションで争いを避けるのか。誰もが予測する通り、争いを避ければ避けるほどにハッピーエンドに近づき、戦えば戦うほどバッドエンドが近づく仕様だ。

ただその徹底ぶりが凄い。真エンドに到達するには全てのバトルで敵を倒すことは許されない。本作も従来型のRPGのように敵を倒すことでEXPを得てLVを上げ、HPを上げることが出来るのだが、ハッピーエンドに辿り着くためには一人として敵を倒すことが出来ない。そうして全てのバトルでひたすら低HPで敵の攻撃を耐え続け、平和的に始末をつける、そこまでしなければハッピーエンドは実現しないのだ。

バッドエンドはその真逆。これでもかと言う程丁寧にモンスターを駆逐する。ランダムエンカウントで敵が枯れるまで殺戮を繰り返し、全てのボスキャラを倒して到達するのがバッドエンド。一人、一匹として見逃すことは許されない。

その両エンディングに至るまでの徹底した過程こそが各ルートのシナリオにおける最高の演出だ。テキスト選択型のADV形式ではこれほどの臨場感を得ることは難しいだろう。ADVの演出方法として実に画期的であり、同時に刺激的でもある。なるほど本作が名作との評価が高い所以である。

 

しかし、本作が名作であるのはそれだけが理由ではない。

 

二人の主人公が示すものとは?

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いや、これまで語ってきた内容だけでも十分に名作と言って良いのだ。各シナリオを十二分に支える見事な演出。プレイヤーにとっての苦行すら演出に取り込んでしまうその発想は実に見事と言って良い。

しかし、である。本当に本作のシナリオや演出を額面通りに受け取って良いものだろうか?全ての争いを避けることで生まれるハッピーエンド、全ての”敵”、全ての”モンスター”を殲滅することで陥るバッドエンド。ラブ&ピースなヒッピー的世界観、そんな単純な結末に納得するだけの作品なのだろうか?

そんなことを考えてしまった切っ掛けは真ルートであるPルート、ハッピーエンディングの直前。ネタバレになるので詳細は避けるのだが、実は本作には主人公が二人いる。そのことが物語の核心を担うキャラクターにより明かされるのである。

ここまで書いてしまえば予想はつくだろうが、ハッピーエンドにおける主人公とバッドエンドにおける主人公は全くの別人なのである。これは同一人物の別側面とかいう話ではなく、正真正銘の別人と言うことだ。

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ここからは推測の入った話になるが、本作における二人の主人公、その一人は本作の作者であるTobyfox氏により想像された純粋に創作上の人格、そしてもう一人は本作をプレイするプレイヤー自身である。ここまで言えばどちらがどちらのルートの主人公であるかは最早言を待たない。両者の「名前」を見ればそれは明らかではないかとすら思う。

演出手法は見事ながらも、物語そのものはグッド、バッドのシンプルなお話に思えた本作だが、この「2人の主人公」の存在がそのシンプルさに疑問を投げかける。どうにも本作の「全ての戦いを避けることで得られるハッピーエンド」「全ての敵を殲滅することで陥るバッドエンド」という二元的な構造に対する作者Tobyfox氏のシニカルな視点を感じずにはいられないのだ。創作上の存在でしかないハッピーエンドとその主人公に対して、リアルに過ぎるプレイヤー自身というバッドエンドとその主人公。それがTobyfox氏自身の世界や人間に対する視点であると考えてしまうと、本作を物語そのままのシンプルさで受け止めることは最早できない。Pルート、Gルートに至るためのその徹底した行程すら、作者の薄ら寒い程の冷笑的な視点を感じる。このシンプルさすら、Tobyfox氏のニヒリズムをよりヴィヴィッドに感じせしめるための演出ではなかったのか?そこまで考えてしまうともう素直にこの物語を受け止められない。グッドエンドとバッドエンド、作者であるTobyfox氏が見せたかったのはどちらの結末なのだろうか?それとも見せたかったのは本作の構造である作者自身の世界に対する視点なのだろうか?考えれば考えるほどに単純な作品ではないとの思いが増すばかりだ。

 

それでも希望はあるのだ

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しかし救いはある。

一つはNルートの存在。グッドでもなくバッドでもないノーマルエンディングの存在。もっとも有り得べし結末としてのノーマル・エンド。本作は寓話的に見えて、その構造として作者の思想が非常に率直に表現された作品だと思うが、その効果をより高めるならばノーマル・エンドは必要なかったはずだ。両極端な2つの結末だけで充分なはずなのだ。しかしノーマル・エンドは存在する。商業作品として成立するうえで必要な要素だからと言うのが一番の理由だろうが、自分はこれを「中庸」への信頼と解釈したい。世界構造の問題は何一つ解決していなくとも、この世界は明日も続いていく。善と悪の狭間にある現実への肯定であると感じるのである。

そしてもう一つはGルートの難易度だ。白状すると自分が本作でクリアしたのはN、Pの2ルートのみ。Gルートについては中盤のボスである「ふじみのアンダイン」戦で断念した(その後のシナリオとラスボスである「サンズ」戦は動画で確認)。本作は一体の敵も倒すことが許されないPルートの難易度も中々のモノだが、全ての敵を倒さなければならないGルートの難易度はそれを更に上回る。実質的な敵は「ふじみのアンダイン」と「サンズ」の2名だけだが、とにかくこの両者の難易度が尋常じゃない。自分のプレイスキルを棚に上げるようではあるが、この難易度は「プレイヤーが必ずしもGルートをクリア出来なくとも構わない」と明確に意識したレベルデザインだと思う。つまりバッドエンドがハッピーエンドよりも実現が困難である点が、本作における作者Tobyfox氏のシニカルな視点の中に存在する希望の光を見出したように思えるのだ(同時にその困難すら乗り越えてしまうゲーマーという人種に対する皮肉も)。

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『Undertale』という作品は、その見た目の印象から受けるメルヘンな作品ではない。そのシナリオのように分かりやすい作品でもない。ゲーム的な演出に極めて優れた作品だがそれだけの作品ではない。

この作品は構造そのものに作者であるTobyfox氏の思想とメッセージ、そして希望が込められた作品だと自分は評価したい。全てクリアできなかった作品であり、実のところプレイそのものを楽しめたとも言い難い作品なのだが、それでも本作は名作の名に値する作品だと評価したい。

 

本稿の最後に一つだけ。

 

繰り返しになるが本作には主人公が2人存在する。

 

一人は一度も戦わず、一人として殺すことの無かった主人公。

一人は全てを敵と見なし、一人として見逃すことの無かった主人公。

 

プレイヤーである あ な た は ど っ ち ? ? ?

 

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