食は広州に在り:思わず腹の虫が鳴る食エッセイ

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書名:職は広州に在り

著者:邸永漢

発行:中央公論社

事業家であり作家でありコンサルタントでもあるという多才の人、邸永漢1975年のエッセイ。

氏の食をテーマにしたエッセイはどれも読みやすく面白いものが多く、本作がその代表と言えるだろう。扱う食のジャンルもルーツである中国料理だけではなく、和食、フレンチ、イタリアン、etc、、と幅広く、また氏自身も手ずから料理をするため単なる食の感想にとどまらない。

本書はタイトルにもあるように、中国料理についてのエッセイが主であるが、単なる料理の解説にとどまらず、料理の背景にある中国の故事、華僑の人々の食に関する習慣、華僑の立場から見た日本人の習慣についての話を絡めて読ませるあたり、エッセイストとして非常に筆が立つことが伺える。その達者な筆致で自身の美食に関する知識を披露するものだから、読んでいて無性に腹が減ってしょうがない本である。

世に食に関するエッセイは多いが、内容も読ませるものであり、かつ対象を旨そうに書くことでは、邸永漢池波正太郎が双璧を成すものと個人的には評価している。