天国と地獄:映画の中に残る風景

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評価:3(5点満点)

総評:

1963年公開の言わずと知れた黒澤明作品。当たり前ですが役者がみな若いですね。三船敏郎は黒澤映画でのイメージが強すぎるのでそれほどは感じませんが、現在も現役の仲代達也は露出も多いので本当に若い。犯人役の山崎努も、現在では個性の光る演技派ですが、本作では正に往年の若手2枚目俳優といった印象ですね。加藤武はその他大勢の刑事役の一人のわりに印象に残るのはあまり顔の造作が変わっていないからでしょうか?

63年公開ですから50年以上も前の作品です。私は現在40代なので当然公開当時にはまだ生まれていません。ですので本作に登場する横浜の風景は私にはなじみのないものです。バラックまがいの家屋が立ち並ぶ風景と、新興住宅地のコントラストはようやく物心がついた時点で70年代後半という私の世代でぎりぎりリアリティが保てる風景なのではないかと思います。80年代以降に生まれた方にとってはこの映画の中に映る日本はほとんど外国に近いものなのではないでしょうか?

映画の終盤で横須賀の青線地帯と思わしき街並み(上に添付したポスターの下半分です)が登場しますが、たかだか50年前にはこのような光景が確かに存在したのですね。当時における貧富の貧というものがどのくらいのものか感じることができます(本作のテーマからして、脚色ということもあるでしょうが)

さすがに50年前となると現在の感覚では違和感を感じる場面も多いですね。本作では誘拐の身代金が三千万円なのですが、これはむしろ現在の感覚では少額と感じるくらいではないかと思います。現在の価値に直せばその10倍では効かないかもしれないですね。また、身代金の引き渡し方法も、携帯電話の普及した現在ではさすがに無理があります。

それでもそれらの点を些細なものとして脇に置き、サスペンス映画として現在でも楽しめる作品であることには違いないと思います。とはいうものの、1シーンごとの尺が現在の映画やドラマでは考えられないほど長い(最初の捜査会議のシーンなど、刑事の報告だけで延々20分以上!)ので、このテンポに耐えられない人には眠くなる類の映画かもしれません。