マイ・インターン:都会のおとぎ話

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評価:3点(5点満点)

総評:

2015年のアメリカ映画。非常に見やすい映画と言えます。主人公をはじめ悪人や嫌な奴は一切出てきません。視聴者の心に刺さるようなきついシーンもなく、ストレスなく安心して最後まで見ることが出来る映画です。最後まで気持ちよく見ることが出来て、エンドロールで少し元気になる。そんな作品です。

物語としてはアン・ハサウェイ演じるIT企業の経営者ジュールズのもとに、社会貢献の一環として採用したシニア・インターンとしてロバート・デ・ニーロ演じるベンが訪れるところから始まり、昔堅気だが誠実なビジネスマンであるベンが如何にも今風のIT企業であるジュールズの会社と彼女自身をも変えてゆく、、、という、まあありがちな内容です。ベンの存在を外国人や子供、地方からの上京したてのお上りさんなどに置き換えれば過去に似たような話はいくらでもある内容と言えます。ベンが現代のIT企業の風土に戸惑うことなく早々に受け入れられるなど、中々にご都合主義的な部分も目立ち、ドラマとして深みも感じられる内容でもありません。どう考えても現実にはあり得ない、いわばおとぎ話です。ありがちな設定、ありがちな物語、波乱のない脚本。本来であればもっと評価は低くともおかしくない作品です。

それでも本作を低く評価する気になれないのはやはりデ・ニーロ演じるベンのキャラクターの魅力にあります。ブルックリンで生まれ育ち、電話帳会社を定年まで勤めあげ、身だしなみに気を遣い、仕事に熱心で誠実な、いかにもニューヨーク風の紳士。正にニューヨーク生まれである(デ・ニーロはグリニッジ・ヴィレッジ出身ですが)彼のためにあるような役柄であるベンを、デ・ニーロが魅力たっぷりに演じています。過去の作品の数々で演じた役柄に比べれば、その演技力が際立つキャラクターではないものの、当時72歳のデ・ニーロだからこそ演じられる誠実さと温かみのあるベンのキャラクターが本作の一番の魅力であると言えます。

映画に限らず小説や漫画、演劇でも多くの作品で踏襲されるパターンやテンプレートがあり、ハリウッドでヒットするような映画には、多かれ少なかれそれらの類型に当てはまるものです。逆に言えば「今まで見たこともないようなお話」と言うのは本当にまれで、特に歳を重ねてそれなりの数の作品に触れたことがある人であれば、どうしても「この話は~に似ているな」と感じるものです。それを分かっている製作者であれば、すでに似たような話が氾濫する中で作品の魅力をどこに置き、観客に対して訴求するのかを考えているはずで、以前感想を書いた『レザボア・ドッグス』であれば物語の構成であり、本作であればベンのキャラクターとそのキャスティングにあると言えるでしょう。デ・ニーロ演じる地味だがカッコいい爺さんを見るだけでも価値がある映画です。