数字の国のミステリー:相変わらずの読みやすさ

 

『数字の国のミステリー』

マーカス・デュ・ソートイ著

新潮社

 

イギリスの数学者である著者の3冊目となる、一般向けの数学解説書。解説書、などと書くと敷居が高そうに思えるが、エッセー的な筆致で描かれた本作は普段数学に馴染みがない人々にもさほど抵抗感を受けないのではないだろうか。

ソートイの著書は、『素数の音楽』、『シンメトリーの地図帳』のどちらも既に読んでいるが、相変わらずの読みやすさだ。自分もそうだが、数学や自然科学系の著作と言うものは、専門用語や数式という、分かりやすい壁を、如何にして読者に乗り越えさせるのかについて、著者の力量が問われる。ソートイはこの点について抜群のスキルを有していると言えるだろう。

素数、対称性と言うテーマに絞った前2作と異なり、本作では所謂「ミレニアム懸賞問題」を取り上げ、1問題につき1章を取り上げる形式となっている。

著者の上手さが光るのは、各ミレニアム問題そのものの解説から入るのではなく、それぞれの問題に纏わる、非常に単純、もしくは抽象的な事例やエピソードを、各章の導入として取り上げ、それぞれの問題が扱うテーマについての普遍的な解説につなげている点だろう。そして各章の最後に、当該の章における記述が、いかなる数学的課題(₌ミレニアム問題)に繋がっているのかが説明される。この流れが非常に秀逸で、とかく読み進めるにはハードルが高い”数学”という題材を扱う本としては、群を抜く読みやすさを誇っていると言えるだろう。「”リーマン予想って何を予想しているの?」という質問に端的に回答したいのであれば、とりあえず本書を読んでおけば良いだろう。むろんそれがポアンカレ予想でもP≠NP予想でもよい。ただしこの著者の本の場合、あまりにも読みやすいので、なんとなく”分かったつもり”になってしまうのが困りものだ。とかく読みやすいのは間違いないが、その内容を理解できているかはあくまで読者の素養次第ではあるだろう。ちなみに自分は理解できているという自信はない。

著者はオックスフォードの教授を務める数学者であり、本業はライターではないのだが、非常に達者な書き手だ。数学の裾野を広げるスポークスマンとしては第1人者と言えるだろう。普段数学に興味がない読者こそ、本の幅を広げる意味でも読んで損のない著作であると思う。