『Hacknet』 気分(だけ)はスーパーハカーなハッキングシミュレーター

f:id:Martin-A:20190608131615j:plain

『Hacknet』をクリア。所要時間は7時間ほど。

2015年に発表された本作の魅力を端的に語るならば、下記の記事を見てほしい。

つまりはそういうことだ。本作は”ハッキングシミュレーター”と分類されているが、正に自分がハッカーとなる気分を存分に味あわせてくれる作品だ。

f:id:Martin-A:20190608131939j:plain

一通のメールを受け取ることから本作は始まる。"Bit”と名乗るそのハッカーからのメールには「自分の死の謎を解明してほしい』と記されていた。プレイヤーはBitからの依頼に応えてその死の謎を求め、ネットの海に乗り出すことになる。

・尖ったシステム、尖ったUI

本作はゲームのジャンルとしてはADVに該当するのだが、その特徴として、とにかくシステムとUIにエッジが効いている。

f:id:Martin-A:20190608132422j:plain

本作のプレイは終始上記に添付した画面で進められる。左上がアクセスした端末のディスプレイ、左下がこれまでに判明したサーバーや端末のマップ、そして右側が操作画面だ。"Bit"の死の謎を追うために、プレイヤーは様々なミッションを遂行する。ミッションは全て特定の端末をハッキングすることで進められる。与えられた情報から対象の端末のIPアドレスを突き止める。対象の端末にアクセスし、セキュリティを突破してハッキング。端末を掌握した後にミッションを達成する。ミッションの内容は情報の取得、削除、捏造など本作ならではのものだ。まさに”ハッキングシミュレーター”である本作に特化したシステムと言えるだろう。

f:id:Martin-A:20190608133317j:plain

そのため本作のUIもまた、そのシステムに合わせた内容となっている。プレイヤーは画面右に用意されたコマンドラインに、状況に応じた命令を打ち込みゲームを進めていく。使用するコマンドはUNIXのようなコマンド式のOSや、Windowsコマンドプロンプトでお馴染みな基本的なものだ。とはいえWindowsのようなGUI式のOSしか触れた事の無いようなユーザーにとって本作のハードルは高い。使用できるコマンドはヘルプで見ることが出来るのだが、慣れないプレイヤーにとっては何をすれば分からないし、何をしているのかも分からないのではないだろうか?例に挙げたOS同様、スペース一つ、文字一つの打ち間違いでコマンドは正しく動作しない。本作を起動はしたものの、訳が分からず放棄したプレイヤーも少なくないと思われる。

ならば本作は無駄に作品のハードルを上げてしまったのだろうか?そうは思わない。本作は”ハッキングシミュレータ”である。プレイヤーに如何にハッカー気分を味あわせるかが肝だ。このシステムとUIはそのための演出であり舞台装置だ。これ以上に簡易なシステム、UIにすることは可能だろうが、それはおそらく多くのプレイヤーにとって幼稚なものとなり、シミュレーターとしての質を下げるものになる。本作のシステムとUIはシミュレーターの質を担保するギリギリのラインを維持している。それが一定のプレイヤーを切り捨てることになったとしてもだ。その決断は正しい。本作で味わうことのできる、自分が凄腕のハッカーになったような感覚はこのシステムとUIあってのものだからだ。

・ADVとしての評価

ADVとしても本作の質は高く評価できる。独特のシステムもあるせいか、難易度は高めに感じられるが、理不尽なものではない。自分はクリアまでに2か所ほど攻略サイトを見ることになったが、分からなかったポイントも、「そんなの分かんねーよ!」と言ったものはなく、「あー、あのミッションにヒントがあったのかー」といったもので、要は自分の気づきが足りなかったのだ。全てのミッションを解くためのヒントは、それまでに全て示されている。あとは何をすればよいのか?ツールを選び、情報を再度見直し、Try&Errorの繰り返しだ。一種のパズルゲーム的な要素のあるクラック&ハックと真っ当且つ誠実な造りの謎解きが組み合わさり、質の高いADVに仕上がっていると言えるだろう。

f:id:Martin-A:20190608140036j:plain

・気分を盛り上げる最高のBGM

本作でもう一つ見逃すことのできない要素がBGMだ。とにかくその楽曲が優れている。単体で聴いてもすぐれた楽曲だが、プレイ中に聞いていると否応なくその臨場感が盛り上がる。ハリウッドのハッカー映画のBGMに使用してもなんら遜色がないレベルだ。本作にはサントラが同梱されているが、さっそくスマホに落として外出時にも聞いている。システムとUIと同レベルでハッカー気分を盛り上げてくれる最高の演出だ。

f:id:Martin-A:20190608140643j:plain

・インディーゲームのお手本のような作品

Steamをはじめとするゲーム配信の隆盛により、小規模なインディースタジオの作品がヒットを飛ばすことも多くなった。しかしその実態は玉石混合と言ったもので、一つの成功作の影に多くの失敗作が存在することも良く知られている。面白い作品、質の高い作品を出すだけでは多くの石の中に埋もれてしまう。予算、人員の限られる中では大規模スタジオのようなプロモーションも望めない。作品そのものにユーザーの耳目を引く何かが必要となる。質の高いゲーム性にエッジの効いたシステムを兼ね備えた本作は、成功するインディーゲームの一つのお手本と言うべき作品だろう。

f:id:Martin-A:20190608141522j:plain