『ABZU』 素晴らしいクオリティ、そして逃れられぬ呪縛

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『ABZU』をクリア。所要時間は2時間。

2時間という所要時間から分かるように非常に小規模な作品。本作についてはその内容を紹介されるにあたり、枕詞のように繰り返される文句がある。「あの『Journey』のクリエイターの作品」というやつだ。

『Journey』と言えばthatgamecompanyによるインディーズ・ゲームの名作として名高い作品。自分もPS3でプレイ済だが、その圧倒的な個性を持つビジュアルとプレイスタイル、質の高い音楽、そして寓意的な作品性は正に名作と呼ぶにふさわしい作品だった。その名作と常に並べて評されるというある種の不幸を背負った作品なのだが、そのクオリティは期待を裏切らないだろう。

”ゲーム”の多様性を示す一作 

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本作の内容を一言で説明するのは難しい。『Journey』と同様、本作も明確なジャンルを定義することが難しい作品だ。海洋アドベンチャーとも言えるしダイビングシミュレーターともいえるが、同時にそれだけでは説明が不足している。

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プレイヤーは何の説明もないままに、古代の遺跡とも宇宙文明とも見受けられる様相のギミックを解きつつ、海洋を進んでいく。南海のラグーンに始まり遠洋を経て、深海にまで到達する。

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プレイを進めていくと作品設定や背後のストーリーらしきものは伺えるが、それを大上段に考察するのは無粋だろう。この美しく広大な海洋スペクタクルを体験すること自体が本作の”ゲーム”としての特徴と言うべきだ。その圧倒的なビジュアルと心地よいBGMはセラピー的な印象すら感じられるものだ。

ジャンル付けが難しい作品なだけに、本作は現在のゲームにおける多様性を示す作品であると言える。ゲームに関心の無い層、未だにゲームと言えばファミコンのピコピコ的イメージしか持たない人々に、現在のゲーム市場の豊饒さを示すにふさわしい作品の一つにあげられるだろう。

それでも感じる名作の呪縛

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とはいえ手放しの賞賛のみで終わる作品でもない。指摘すべきはやはり『Journey』との連想だ。『Journey』をプレイ済の自分が本作に感じたのはその保守性だ。確かに作品のクオリティには文句のつけようもないが、そのスタイルにおける『Journey』との類似性は隠しようもない。本作を”一言で説明するのは難しい”と先述したが、実は一言で説明できる。”海を舞台にした『Journey』”と言えば良いのだ。『Journey』をプレイ済ならそれで通じるだろう。Thatgamecompanyが『flOw』、『Flowery』、『Journey』と作品ごとに打ち出してきた圧倒的な独自性はそこには見られない。いわば”Journey-like”とも言うべきスタイルがそこに見える。比類なき独自性を誇る先達の存在故に、本作はその高いクオリティにも関わらず今後も『Journey』との連想で語られる運命を逃れられそうにもない。仕方のないことだが少々残念でもある。

個人的に不満な点

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『Journey』との類似性とは別に、全くの主観で不満な点も幾つかある。

1点はその操作性。海中を自由に回遊するというコンセプトに対して意外に操作性が悪く感じた。正直思うように動けない場面が多い。海中を漂う浮遊感はうまく表現できているのだが、自由が利かないのでなかなか苦労した。海中を舞台にした作品としては少々興ざめした部分があることは否めない。

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2点目はその根底にある過剰なエコロジー思想。ある種の分かりやすさを優先した結果と思いたいが、自然を善きもの、科学文明を避けるべきものとするあざといまでのメッセージ性は正直肌に合わない。作品の表層が非常に寓話的であるだけに、底の浅さとして粗が目立つ結果となってしまった印象だ。単に好き嫌いの範疇ではあるが、もっとそのメッセージを記号と寓意の中で煙に巻いてくれた方が色々と妄想も捗るのではないだろうか。

単体で見ればやはり優れた作品

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色々と指摘したい作品ではあるのだが、やはりそれは偉大な先達である『Journey』あってのこと。そこを離れて本作を1本の作品として、客観的な評価に努めれば、やはり本作は優れた作品と言えるだろう。ボリュームは非常に短いものの、その作品世界で得られる体験は素晴らしく上質なものだ(唯一無二とは言えないが...)。

¥1,980という価格は割高に思えるかもしれないが、RPGや格ゲー、FPSなどの”普通”のゲームに食傷気味ならば、ちょっとしたアクセントとしてセール時に購入するのは悪くない選択だ。

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