『ORWELL』 SNS時代におけるADVのスタイル

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『ORWELL:Keeping An Eye On You』をクリア。所要時間は約7時間。マルチエンディングのうち3つを達成。実績解除は6割ほどだが、これ以上はプレイする気にならなかった。

その名が示す通り、ジョージ・オーウェルの『1984年』で描かれた監視社会をSNS時代に合わせてアレンジしたADVだ。

物語は架空の国家である「The Nation」の広場で発生した爆破事件から始まる。プレイヤーは政府の保安機関に所属する監視員として、監視システム『ORWELL』を使用して、爆破事件に関与した疑いのある人物の情報を収集し、事件の解明に取り組むことになる。

本作のタイトルでもある監視システム『ORWELL』は、いわばエシュロンのカジュアル版とも言うべきシステムだ。国家に属する人物のあらゆる電子情報に対するアクセスを可能とする。一方で情報の収集と選別はマンパワーに依存しており、その役割を担うのがプレイヤーという訳だ。

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本作の発売は2016年だが、折角膨大な電子情報へのアクセスを可能としておきながら、収集と選別が全て人力と言うのはこのAI時代になんともアナクロに感じるのだが、それを言ってしまうとゲームとして成り立たないのでまあ良しとしよう。

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本作ではORWELLを通じて容疑者やその周辺の人物の情報を収集し、保安機関へ報告することがプレイ内容の中心となっている。その対象はHPやEmailのみならず、FacebookTwitter、Lineに相当するSNSがその多くを占めている。

正直な感想として、SNSを通じて情報を収集して事件の解明を目指す、という本作のデザインについて、作品上の必然性はそれほど感じない。正直同じシナリオを使って、本作を昔ながらの総当たり式のADVスタイルで仕上げたとしてもそれほど違和感を感じないだろう。

同じように監視社会とSNS社会を題材としたADVとしては『REPLICA』が挙げられるが、こちらはスマホ画面のみを使用して作品をプレイする、という独特のスタイルに対して、シナリオできちんと必然性を持たせていたことを考えると、折角のゲームデザインを上手く活かしきれていないという感想は否めない。

 

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 とは言うものの、オールドスタイルな総当たり式のADVでは時代遅れ感が否めないこともまた確かだ。これだけSNSが浸透した社会において、古風な推理ADVにおける「足で稼ぐ」式の捜査と言うのは流石にそぐわない。本作は監視システム「ORWELL」を使用して捜査を進める、というそのゲームデザインが一つの特徴であり、作品のセールス・ポイントとなっているのだが、それは作品の個性というより時代の潮流に合わせた必然的なスタイルと言うべきなのだろう。

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そういう意味では本作のシステムやUIは特別個性的、という訳ではないのだが、ADVにおけるこれからのスタンダードなスタイルを考える上では一つの基準となるものと評価できるだろう。

ただ本作について言えば、肝心のシナリオの出来がよろしくない。サスペンスとしてもミステリーとしても今一つだ。序盤から中盤にかけて伏線やヒントを全く張れていない為、終盤の展開がただただ唐突にしか思えない。ゲームという媒体だからまだ我慢できたが、書籍であれば商業ベースでの発行はまず考えられないレベルだ。ビジュアルやUIのデザインは悪くないのだから、もう少しシナリオについて練り上げていれば名作とはいかないまでも、傑作クラスには到達しただろう。その点は惜しい。

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正直現代的なスタイルのADVで、本作と同種のテーマに関心があるのであれば、先に挙げた『REPLICA』や『Hacknet』をお勧めする。だがこれら2作品はかなりUIの癖が強いので、よりカジュアルなプレイを望むのであれば本作が相応しいだろう。

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