『Blackguards』 シナリオとゲーム性の二律背反

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『Blackguards』をクリア。難易度イージーで所要時間は36時間。

RPGとしての本作の特徴は2点にまとめられる。「犯罪者やアウトローが主人公となるダークなシナリオ」と、「タクティカルな戦闘システム」だ。初心者への敷居が高く、同時に熟練プレーヤーの期待度を上げるコンセプトはリスクも高い。敢えてその道を選ぶことはディベロッパーの本作に対する思いの表れだと感じられるが、実際にプレイした感想はなかなか複雑なものとなった。

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シナリオについて言えば、プレイ前に期待していたような”アンチヒーロー”的な内容からは遠かったと言うしかない。登場人物が悪党やアウトローと言うのは正直過大な煽り文句で、そもそも主人公は濡れ衣を着せられた罪人というだけで、別に悪党といった描写があるわけでは無い。パーティに加わるメンバーについては、牢獄で出会ったドワーフと魔術師、ヤク中のエルフ、剣闘士奴隷などそれらしい面子ではあるのだが、どのキャラクターもパーティメンバー以上の個性がシナリオで表現されていないこともあり、シナリオ面でのコンセプトが発揮されているとは言い難い。アンチヒーロー的なシナリオを期待すると拍子抜けする内容となるだろう。

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ゲームシステムに関してはおおむね期待通りと言って良いだろう。所謂ヘックス型マップで戦闘を展開するターン制ストラテジー要素の強いシステムだ。戦闘そのものについてもギミックが豊富であり、単純に敵を全滅させるだけの戦闘ばかりではないので、中々に飽きさせない。もともとこれが目当てで購入した作品なので、その点は満足したと言って良い。

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しかし不満な点が無かったわけでは無い。その1点は、レベルアップのリソースが限定されていることだ。本作ではシナリオやサブクエストに従って戦闘が発生するため、所謂レベル上げ作業を行うことが出来ない。作品を通じて得られる経験値は限られており、その範囲内のやり繰りが求められる。本作の成長システムはレベル制ではなくスキル制となっていることもあり、全てのスキルを習得することは困難であるため、必然的にその選択に頭を悩ませることになる。それが楽しみと言う向きもあるだろうが、一方でこの”限定リソース下でのスキル制成長システム”はスキルの選択次第で詰むリスクを孕んでいる。結果として詰む際の用心のためにスキルポイントをなるべく使用せずにゲームを進め、終盤に大量の残高が残るチキンなプレイとなってしまい、成長システム自体を十全に楽しむことが出来なかった。スキルツリーそのものは良い出来だったのでその点は残念だった。

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つまり、シナリオとゲーム性それぞれに不満が残る結果となった。実のところ、これは本作の「シナリオ重視」と「タクティカルなRPG」の相性が悪い結果なのではないかと感じた。シナリオの浅さを感じる要因の一つは、”悪党”であるところのパーティメンバーの書き込みが足りなかった点だ。彼らがどのような過去を持ち、その人格を形成したのか、サブクエストなりメインシナリオなりでもっと深掘りされていれば、シナリオ面はより充実していたはずだ。一方でタクティカルRPGはそのシステム上一回の戦闘時間がとにかく長くなる。本作でも平均で10~15分。ボス戦では20分越えもざらだ。シナリオを充実させればその分戦闘回数も増加する。結果としてそれがプレイ時間の肥大化につながり、プレイヤーの飽きに繋がる結果となる。これはなかなかに解決の難しい二律背反と言えるだろう。

結果としてボリュームを考慮したバランス調整の結果、シナリオ面は薄くなり、成長システムでは限定リソース制を獲らざるを得なかったと推測される。実際にプレイした感想としても、いろいろと不満はあるがこれが最も本作に適したバランスであると思わざるを得ない。もともと相性の悪いコンセプトを選択した中でのバランスとしては、寧ろ非常に良い出来と言っても良いくらいだ。もともと相性の悪い組み合わせを選択したことが誤りと言うことも出来るだろうが、その選択を前提に、この苦労の跡が見えるバランスを練り上げた点を個人的には評価したい。製作者はやはり「シナリオ重視のタクティカルRPG」を作りたかったのだろう。その想いと品質の帳尻を合わせる苦労が偲ばれる作品であったと言える。

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本作に興味を盛られたならば、難易度や、やり応えを求めない限り、本作はイージーでのプレイをお勧めする。基本的に難易度は高めなので、イージーでもそれなりに楽しめる上、戦闘のやり直しも少なく、ストレス少な目で快適にプレイできるはずだ。スキル選びも重要なので、ネットで軽く調べてからプレイすると良いだろう。

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