『Fallout3』 ”ポスト・アポカリプス”が失ったもの

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『Fallout3』をクリア。メインクエストクリアまでの所要時間は約30時間。サブクエストをそれほど消化しなかったこと、所属する陣営が事実上B.O.S一つであることを考慮すれば妥当なボリュームだろう。現在は未消化のサブクエストとDLCをプレイしているが、全てクリアするなら100時間近くは必要となるだろう。

Fallout』シリーズと言えばポスト・アポカリプスを題材としたオープンワールドRPGの名作。その魅力については以前『Fallout New Vegas』の感想でも書いたところだが、その前作である『Fallout3』もやはり素晴らしい出来だった。『Fallout4』の世界的な大ヒットのルーツが本作にあると言うのも納得。モーションやグラフィックに年月相応の古臭さはあるが、今プレイしても十分に楽しめる内容であることは言を俟たない。

 

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そのため「オープン・ワールドとしてのFallout3」、「RPGとしてのFallout3」についての言説はどうにも『Fallout New Vegas』の感想と重複する部分が多くなってしまう。そこで本稿では「ポスト・アポカリプスとしてのFallout」に焦点をあてて筆を進めていきたい。

 

ポスト・アポカリプスな世界に溢れるノスタルジア

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『NV』の感想でも書いたことだが、ポスト・アポカリプスものとしての『Fallout』シリーズに特徴的なのが、作品に溢れる過剰なまでのノスタルジアである。本作を含む『Fallout』シリーズの舞台は、西暦2077年に発生した核戦争により焦土と化した世界の更に200年後。核戦争前の時代すら現代から半世紀以上先の未来の話だ。そんな遥か先の時代を描いた作品でありながら、本作のどこにノスタルジーを感じると言うのか?

一つは作品の端々で描かれる核戦争前の文化・風俗だ。現代の視点から描いた2070年代の描写としては非常に古臭い。ロボットやPip-Boyのデザインこそレトロ・フューチャーと言えるかもしれないが、ファッションや髪型、服装、家屋等のデザイン、音楽などは完全に映画『アメリカングラフティ』等で描かれた60年代のアメリカそのものだ。

核戦争前の世界をレトロチックに描写したことは完全に製作者の意図だろう。それも60年代、黄金期のアメリカである。アメリカという国にとって最も輝かしい記憶であるだけでなく、当時の西側世界での憧憬を集め、文化風俗に多大な影響を与えた60'sを核戦争前の世界に置き、崩壊後の世界に散見されるその残滓が我々のノスタルジーを惹起するという訳だ。

二つ目の仕掛けとしては舞台設定だ。『Fallout3』の首都ワシントン、『Fallout New Vegas』のネバダ、『Fallout4』のボストン、いずれもアメリカにおける政治、文化、歴史における文脈上重要な土地であり、そこに生きる人々は所謂”モヒカンに肩パッドでヒャッハー”なレイダーだけでなく、独立戦争における義勇兵の名を冠したミニッツメンや、南北戦争時の地下鉄道を模したレールウェイズなど、まるでアメリカ史をなぞるような組織が活動している。アメリカ史に興味の無い人には伝わりづらいかもしれないが、Falloutにおけるウェイストランドは崩壊した世界であると同時にフロンティアとしてのアメリカの再現なのである。

ポストアポカリプスを題材とした作品で、これほどまでに過剰なノスタルジアに溢れたものは他に類を見ない。これは『Fallout』シリーズの抜きん出たオリジナリティであり、多くのプレイヤーを引き付ける魅力であることは間違いないだろう。

ポスト・アポカリプスが失った”リアル”

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しかしここで気になる点がある。ノスタルジーと言うのは極めて時代的な感傷だ。我々個人個人が生きて、共有した時代に大きく左右されるものであると言うことだ。

Fallout』がノスタルジーの拠り所としている60'sのアメリカに対して憧憬を感じた世代と言うのは自分のような70年代生まれあたりがギリギリのラインだろう。当のアメリカですら80年代生まれあたりが限界かもしれない。このあたりの年代は正にゲーム文化の興隆をリアルタイムで経験した中心の世代でもあるため、『Fallout』という作品の持つノスタルジックな要素に非常に馴染みやすい。しかしそれ以降の世代にとってはどうだろう?廃墟に佇むレトロデザインな古びたラジオから流れるオールディーズにノスタルジーを感じるだろうか?正直心もとない。

更にもう一点。所謂”ポスト・アポカリプス”を題材とした作品、人類社会崩壊後の世界を描いた作品として、本作のようにその原因を「核による世界大戦」に置く作品は、現代では寧ろ古典に属すると言える。これは核戦争前の世界を60'sのアメリカに置く作品としては常道だ。60'sはアメリカの黄金期であると同時に米ソによる冷戦が深刻化する時代であり、続く70'sは核による対立が更に過激化する時代だ。本作のノスタルジーが直撃する世代は、正にこの”核戦争による世界の終わり”を肌で感じたことのある世代なのだ。60、70年代生まれならば理解できるだろうが、当時の世界にとって核戦争の危機と言うのは非常にリアルで身近なものであった。そのリアルな危機が80年代に『マッドマックス』や『北斗の拳』のようなポスト・アポカリプスの代表的な作品を産む土壌となったと言える。『Fallout3』の発売は2008年だが、核による世界の終わりを身近に感じた世代にとっては、本作で描かれたウェイストランドすら、リアルで且つ懐かしさを感じる世界であったと言うことだ。

しかしこの点も若い世代にとってはどうだろう?東西の冷戦は産まれるはるか前に終わりを告げ、既に歴史の教科書の題材だ。核戦争による世界の破滅は既に現実性が薄れ、寧ろ地球温暖化などエコロジーの破壊や暴走による終末の方がより具体的だろう。『Fallout』の描く”核戦争後の未来”は既に多くのプレイヤーにとってリアルを失いつつあるのではないだろうか?

自分が『Fallout』をプレイして感じるノスタルジーやリアルな終末観を、若いプレイヤーは最早共有できないのではないだろうか?

テーマパークとしての”ウェイストランド”

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若きプレイヤーにとってリアルを失った”終末後の世界”であるウェイストランドに残されているのは何か?それは”ファンタジー”だ。要するに”異世界”だ。Falloutに込められたノスタルジーや核の危機というリアルに共感できない世代にとって、ウェイストランドは最早「剣と魔法の世界」と同義となるのではないだろうか?それはつまりウェイストランドがテーマパークと化することに他ならない。グールやスーパーミュータント、アンドロイドが跋扈する廃墟や荒野はエルフやドワーフ、ドラゴンやゴブリンと交わる異世界と同等の存在となり、彼らの持つ寓意やアナロジーは意味を失うことになるだろう。残るのは想像の産物としてのファンタジー。正にテーマパークだ。だれもディズニー・ランドやUSJにリアルを求めたりはしない。リアルな日常から離れた非日常こそがファンタジーなのだから。

そしてそれはFalloutの持つオリジナリティにとっては一つの危機であると言える。その個性が訴求するプレイヤーの層が先細りすることを意味するからだ。新たなプレイヤーにとってFalloutが示す”ポスト・アポカリプス”は数あるテーマパークの一つでしかなくなるだろう。冷戦をリアルタイムで経験し、核戦争の危機が身近であった世代と、それが最早教科書で学ぶ歴史にすぎない世代では、『Fallout』の作品世界が訴求するものも同じであるとは言えないだろう。ウェイストランドは今正に危機に瀕しているのではないかと考えている。

Fallout』は ”ポスト・アポカリプス”を生き残ることができるのか?

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個人的な見解ではあるが、現在のポスト・アポカリプスで主要となるテーマは2つ。一つは”ゾンビ”。ゲームのみならず映画やコミックでも未だにゾンビものは盛況だ。実に息の長いコンテンツだが、ゾンビと言う存在は人種や抑圧のアナロジーとして広範に使いやすく、また放射能パンデミック、バイオテクノロジーとその発生の原因を問わない(笑)のも使いやすさの点で秀でている。核戦争を背景としたポストアポカリプスより、より汎用的で時代性を問わず今後も使い続けられるだろう。

もう一つはエコロジー。昨今の気候変動に関する議論は言うまでもなく、現在のコロナ・ウイルスによって高まったパンデミックへの危機感など環境そのものがアポカリプスの使徒として人類への鉄槌として使われるケースだ。国家間の戦争、なかんずく世界大戦という概念自体が現実性を失いつつある21世紀において、よりリアルな危機を覚える題材としては寧ろこちらが主流となるだろう。

一方で『Fallout』はそのいずれにも属さない(今のところは)。『Fallout76』によってプレイ面ではオンラインという新たな試みを取り入れてはいるが、その世界観自体に変化があったわけではないだろう。

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ちなみにVault76はFallout3で登場済だったりする。

果たして『Fallout』は今後も変わらぬ魅力を放ち続けることが出来るのだろうか?個人的には今の世界観やコンセプトのファンであるため、大きな変更を望むものではないのだが、一方でこのままのマンネリズムを続けていては、新たなプレイヤーを獲得することは容易ではないと言う気もする。いずれにしても次回のナンバリングタイトルが、シリーズとしての分水嶺となるだろう。オンライン化、Coopの導入などプレイ面での刷新図るのか、それともシリーズとしての世界観を変えていくのか。不安と期待の中で見届けていきたい。

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(2020年11月18日追記)

『Fallout3』の実況動画をYoutubeに投稿しています。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLXsdhhxw03A_WOt6dtkhvAugdyOQPXKRI

www.youtube.com